2025年10月20日

アクナイ その118


命ある者の旅(銃職人の夜)












ヴァンニーニ


オーダー1:ガンクリーナー

【注文番号231】
お客様名:ヴァンニーニ
来年に迫った製銃士資格試験に備えて、自分の銃が作れるように指導してやらなきゃならん。

お客様メッセージ:師匠、長年心血を注いで指導してもらったことを無駄にしないよう、頑張ります。

------------
夕方、あなたはテーブルの下で一本のガンクリーナーを見つけた。瓶の中の液体はとうに乾いていたが、まだほのかにバニラの甘い香りが漂っていて、あなたはつい昔のことを思い出した……

あれはヴァンニーニがまだ幼い頃、工房に来たばかりのある日のことだ。公証人役場から、彼女の母親の守護銃が届けられ、ヴァンニーニはそのひどく汚れて血までついた銃を抱きかかえていた……あなたは、その銃身についた血がどこからきたのかを深く考えようとはしなかった。
そして、あなたは彼女を作業室に連れてくると、銃の手入れの仕方を教えた。その後、手伝いはまだ必要かと尋ねても、彼女は何も言わなかった。あなたはそばにいてやりたいと思ったが、うつむく彼女の姿が目に映り、どうしていいかわからなくなった。
結局、彼女は一人になりたいだけなのかもしれないと思い、あなたはため息をつきつつ上階へと戻っていった。しばらくして、ガラスの割れる音がした。それを聞いたあなたが慌てて下階へ駆けつけると、作業台の上は溶剤で満たされてしまっていた。ヴァンニーニはというと、ただ震えながら、呆然と「事故現場」に立っているばかりだった。
あなたは、彼女を慰めようと何か言おうとしたが、どんな言葉を投げかけようと、沈黙しか返ってこないことはわかっていた。肉親を失った彼女は、苦しみに包まれているのだ。あなたはそれを理解しており、彼女の心の扉を開こうと何度も試みたが、その正しい方法を見つけることはできなかった。

当時の疲労感が蘇ってきたせいで、あなたは、その瓶がとうに割れてしまったはずだという事実には気付きもしなかった。


オーダー2:児童心理学シリーズ

【注文番号231】
お客様名:ヴァンニーニ
話し合った結果、ヴァンニーニの母親が持っていた守護銃を手本にして、銃を製作することにした。ただ、その規格には大きな欠陥があることはもうわかっている。さらなる改造が必要になるだろう。

お客様メッセージ:師匠、お母さんの守護銃を保管しておいてくれて、ありがとうございます。

------------
真夜中、あなたは古い本を何冊か本棚から落としてしまった。それを拾ってめくってみると、ある診断書が目に飛び込んできた。それを見たあなたは、 ヴァンニーニを連れてほうぼうの医者を訪ねていた日々を思い出した。

【診断書】
ファボール区中央病院、光輪外科患者には言語障害、発話障害、重度の語句脱落、また軽度の読み書き障害も見られる。従って、心因性失声症と診断した。
薬物療法に加えて、特殊な家庭状況を鑑み、毎週当院で共感接触を行うことを勧める……

少女の心理状態を、共感を用いて判断することができないあなたは、医師のアドバイスに従って、『小さな光輪、小さな気持ち』というサンクタの子供を専門に扱った心理学のシリーズ本を購入した。だが、本の全段落を暗記するほどに読み込んだところで、彼女が言葉につかえるのを見て、あなたはようやく気が付いた。この本の内容はすべて、読者とその子供がいずれも輝く光輪を有しているという共通認識に基づいて書かれていることに。
けれど、あなたにはそれがない。ゆえに残念なことに、この本はまるで役には立たなかった。

当時の焦りと怒りは蘇ったが、あなたは、その本を怒りの余りに引き裂いたはずだということはすっかり忘れたままだった。


オーダー3:肩掛け

【注文番号231】
お客様名:ヴァンニーニ
銃の製作も終わりが近い。発射が遅いという問題も改善されたし、残るは外部の塗装だけだ。

お客様メッセージ:この銃の塗装は師匠にお願いしたいんです……小さい頃から、思ってましたから。師匠がくれたプレゼントは、どれも本当に綺麗だって。

------------
深夜、ソファに置かれた羽毛の肩掛けに気が付いたあなたはそれを拾い上げ、ラベルを見たところで、数年前の冬を思い出した……

成分:パガニーニの羽毛100%
―——洗濯表示:
ドライクリーニングのみ
洗濯温度30度以下
つり干し
低温アイロンのみ
漂白剤使用不可

ヴァンニーニは寒さを感じると、息が続かなくなる時まで、あなたの分厚い羽毛に顔をうずめるようにしていた。そこであなたは肩掛けを作るべく、換毛期が訪れるごとに袋いっぱいの羽毛を集めて、その中でも特に色つやの良い羽を厳選していった。忙しさゆえに休みの足りないあなたの羽毛はつやがなく、この作業には何年も時間を費やした。そうして出来上がった肩掛けを受け取ったヴァンニーニが、感謝の気持ちを伝えるのには、長い時間がかかった。それはあなたには本当に長い感謝の言葉として映り、あなたはこれ以上に嬉しいお返しはないと感じた。
その時あなたは、涙をこらえて、彼女を見つめたまま、何も言わずにいた。彼女もそれ以上何も言わず、ただ落ち着かない様子で指をこすり合わせていた。

当時の幸せと喜びは蘇ったが、あなたは、ある時塗料まみれの作業着を「ドライクリーニング用」と書かれた洗濯かごに放り込んだことも、それゆえその肩掛けは色とりどりの塗料に染まってしまったはずであることもすっかり忘れたままだった。


完成品

初めての守護銃











弟子であるヴァンニーニが初めて作った銃。師パガニーニの指導のもとで完成させた物。銃製作の腕前はまだ未熟だが、その様々な創意工夫が、彼女の才能を証明している。



モスティマ&フィアメッタ


オーダー1:ターゲットボード

【注文番号172】
お客様名:フィアメッタ
外勤用に携帯しやすい小型銃を希望。アタッチメントー式が必要、利き手は右手。

お客様メッセージ:この銃は友達への誕生日プレゼントなんです、パガニー二さん。費用のことは気にしませんから、十二月までに完成させてもらえますか。

------------
夕方、あなたは資料棚からある書類を見つけた。何年も保管されていた結果、そのページはとうに黄ばんでいる。それを見てあなたは、数年前、学生たちの守護銃を作るため、聖セオドア総合学校に初めて招かれた時のことを思い出した。

■■■学年一学期総合射撃順位
一位 フィアメッタ
二位 レミュアン
三位 モスティマ
四位 シーラ
……
■■■学年二学期総合射撃順位
一位 レミュアン
二位 フィアメッタ
三位 モスティマ
四位 シーラ
……
■■■学年一学期総合射撃順位
一位 フィアメッタ
二位 レミュアン
三位 モスティマ
四位 シーラ
……

第■■■期卒業生守護銃製作名簿
1.レミュアン
2.モスティマ
3.シーラ
……
一枚一枚ページをめくったあなたは、このフィアメッタという子が守護銃製作名簿に載っていないことを教師に伝えたが、「その子はリーベリなんだ」と告げられるばかりだった。教師の目にはひどく残念そうな色が映っており、あなたはいくらか困惑した。

当時を思い出したあなたはやるせなさを感じたが、その時ファイルを見た後に名簿を工房へ持ち帰らなかったはずであることはすっかり忘れたままだった。


オーダー2:レーズンケーキ

【注文番号172】
お客様名:フィアメッタ
クライアントの友人は、銃のコンセプトを見てとても気に入った様子だ。残りの細部の製作は製銃士に一任するという。

お客様メッセージ:パガニーニさんの発想は、本当に天才的ですね。

------------
夜、あなたは冷蔵庫の中からケーキを見つけた。それで空腹を満たすうちに、初めてそのケーキを口にした時の、あの衝撃が蘇ってきた。
任務が終わるたびに、あの小隊はいつもあなたのお気に入りのケーキを持参して、工房へ武器のメンテナンスをしに来ていた。
サンクタたちは常々自分の守護銃に愛情を注いでいるため、できる限り優しく手入れしてほしいと望んでいたが、あのリーベリの子だけはしばしば無表情でこう尋ねてきたものだ。
「グレネードランチャーの射程、まだ伸ばせますか?」
「ライフリングの性能はまだ上げられますか?」
「アタッチメントの交換が不便なんですが……なにかしらで解決できないでしょうか?」
あなたは彼女に、どれも可能ではあるが、今あるこの鉄の塊はもはや修理はできないので、ランチャー自体を取り換えることが前提だと伝えた。
すると彼女は、相変わらずの無表情でこう言った。
「それなら換えます。」
あなたはため息をつき、これが守護銃でなくてよかったと思った。守護銃がこれほどの損傷を受けていたら、普通なら所有者はきっと発狂してしまうからだ。
彼女が仲間のほうを振り返ると、そのうちの一人はスコープの交換が必要になったと聞いて、声にならないほど泣いていた。それを見た彼女は、口の片端を上げて、あなたの考えに同意するかのようにこう言った。
「私には守護銃がなくてよかったわ。」

ケーキの美味しさに夢中になったあなたは、このレーズンケーキが実のところ、これほど美味しいものではないはずだということを――本当なら、決まって誰かがいたずらで、中に変な味のキャンディを混ぜこんでいるはずだということを、すっかり忘れたままだった。


オーダー3:古い懐中時計

【注文番号172】
お客様名:フィアメッタ
特記事項なし

お客様メッセージ:ごめんなさい、パガニーニさん。最近色々あって、友達には……もう銃が必要なくなってしまったんです。残りのお金はちゃんと払いますから、その銃は、ひとまず預かっておいてもらえませんか?

------------
深夜、仕事中に顔を上げて時間を見ると、12時近くになっていた。フィアメッタが最後に工房を訪れたのも、こうした深夜であったことをあなたは思い出した。

暗い雰囲気をまとったまま、彼女はあなたに語った。「ガン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたその銃を受け取るはずだった人物は、今やラテラーノにはおらず、立ち去る前に懐中時計を彼女に預けて、これを取っておいてほしいとだけ言い残したのだと。
彼女は、額をもみながらこう続けた。
「みんなにはわかってても、私にはわからないんです……いつだって私だけ遅れたままで、もううんざり!」
「まるでこの時計みたい……あいつが寄こした時計も、時間が狂ってるんです。」
あなたは彼女に酒を注いでやり、その懐中時計を手に取ると、時間を合わせてやった。時針と分針は再び動き出す。その瞬間、モスティマがなぜ懐中時計をフィアメッタに渡したのかを、あなたはふと理解した。

「思うに……」 あなたは言葉を紡いで彼女を慰めようとした。
「ほら、この懐中時計を見てみろ。確かにこの秒針と分針に比べりゃ、時針は遅れて見えるが、零時になれば、三本の針は必ず重なって、新しい一日がやってくるだろう。」
「なにしろ、この時計は三本の針があってこそ形作られてるんだからな。」
それを聞いた彼女はため息をつき、無理に笑みを浮かべると去っていった。

あなたは手元の仕事を続けた。その忙しさゆえに、あなたはあの日フィアメッタは工房を訪れてなどいなかったという事実を忘れ去っていた。


完成品

受取人不在の銃(包装済み)











モスティマの二つ目の銃。親友であるフィアメッタからの誕生日プレゼント。高価で非常に出来が良く、ボルゴス通りの製銃士たちからは高い評価を受けて、その年の「ガン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。



パトリツィオ


オーダー1:栄誉勲章

【注文番号0】
お客様名:パトリツィオ
銃騎士用の大型銃。ベテラン職人たちが残したものには改良できる部分がまだたくさんある。気合を入れろ。パトリツィオには、ラテラーノで一番火力の高い大型銃を持たせて、銃騎士就任を飾らせてやるんだ。

お客様メッセージ:おぬしの客となれたことを、心から光栄に思うぞ、友よ。

------------
夕方、あなたは古い友人からの連絡を受けた。そこで、二人が知り合った当時の数々の出来事が思い出されて、あなたの気持ちは乱された。

銀の教皇銃騎士勲章は、1029年2月14日に当時の教皇であるルドヴィコIV世によって創設されたものだ。その勲章は、見習い騎士のうちに特に目覚ましい活躍を見せ、最終評定を経ることなく正式な銃騎士として事前に採用された者を表彰するためのものであり……その最年少受章者が、当時二十六歳のパトリツィオだった……

叙勲式で、あなたは群衆の中から、教皇が手ずからパトリツィオに勲章を付けるのを見ていた。その時、隣にいた従妹のジーアがあなたの手を強く握り、その手を通じて、彼女の興奮と緊張が伝わってきた。

パトリツィオは教皇に礼をすると、急いで群衆に目を向け、あなたたちの姿を探した。そこで、あなたとジーアはすかさず手を挙げ、何度も声を張り上げた。すると、そんなあなたたちを見るなり、彼はすぐに笑みを浮かべたのだった。
彼と目が合った時、あなたは誇りで胸がいっぱいになった。あなたたちは、パトリツィオがこの勲章を手に入れた暁には、あなたが最近製作した大型銃をプレゼントするという約束を交わしていた。口では期待なんてしていないとうそぶきながら、あなたは内心、今ここで輝かしい笑みを浮かべているこの男以外に、自分が手塩にかけた「傑作」に相応しい者などいないと思っていた。

あなたはメッセージには返信せず、苛立って通信機の電源を切ってから、そばへ適当に放り投げた。本当は、当時彼と目を合わせていたのはあなたではなく、ジーアであったことを、あなたは完全に忘れてしまっていた。


オーダー2:祖母のネックレス

【注文番号0】
お客様名:パトリツィオ
もしかしたら……元の設計から、二つに分割すれば使えるかもしれない。

お客様メッセージ:おぬしの設計を上官に見せてみた。すぐに新しい注文が入るかもしれん。感謝してくれよ。

------------
夜、あなたはクルビアから送られてきたネックレスを受け取った。それにはとても見覚えがあり、あなたは思わず、それをどこで見たのだったかを考え始めた。

……パット、このネックレスをあなたに譲るわ。いつの日か、運命の人に出会ったら、その子にこのネックレスを付けてもらって、一緒に私の墓参りに来るのよ……七月がいいわ、ジャスミンの花が咲く頃ね。
――パトリツィオの祖母の遺言より

あの日あなたは、パトリツィオがジーアの首にネックレスをかけるのを見た。その時、ジーアは恥ずかしそうにうつむいていた。
結婚式は七月と決まり、あなたは新郎の介添人として、イチャつくことしか頭にないカップルに代わり、式の準備をすべて済ませた。ジーアと彼が交際していることを打ち明けてきた時、あなたは二人がそれを秘密にしていたことに腹が立ったが、すぐにその怒りは喜びに打ち消された。パトリツィオの祖母が亡くなって以来、彼はいつも一人でいたため、あなたは以前から彼が家族の一員になってくれたらと思っていたのだ。

ネックレスと共に届いたのは、ジーアの訃報だった。悲しみに耐えるあなたは、本当はあの日、自分が喜びに満ち溢れてばかりもいなかったことを――あの日、ジーアが最近膝にかすかな痛みを感じているのをこっそり打ち明けてくれていたことを、忘れてしまっていた。


オーダー3:手紙

【注文番号0】
お客様名:パトリツィオ
銃騎士の甲冑に合わせて、光沢塗料を付けること。

お客様メッセージ:友よ、これは本物の傑作だ。手にしていると、次の任務が待ちきれなくなってくるぞ。

------------
深夜、あなたは金庫から一通の手紙を取り出した。パトリツィオに渡すようジーアから頼まれたものの、ずっと渡せずにいた手紙だ。それを手にすると昔の記憶が蘇ってきた。

【任務通知】
任務日時:7月21日
任務內容:鉱石病患者の聖都追放
執行人:パトリツィオ

六月から七月にかけて、あなたは数え切れないほどパトリツィオを訪ねた。 ジーアを聖都外の修道院にとどめるだけでもいいからと頼み込むあなたは、事態が少しでも好転することを望んでいた。しかし彼はただ黙ってそれを聞き、長い時間が経ってからようやく一言だけを発した。

「法に背くことは……許されん。」
ジーアと抱擁を交わしたあと、あなたは聖都の外で待つ車列へと彼女を送った。七月、気温は暑かったが、彼女の両手は冷たかった。車列のそばには、銃を背負ったパトリツィオがいた。彼は一言も発さずに、あなたとジーアをちらちらと見続けていたが、目を合わせることはできない様子だった。

あなたは手紙をネックレスと共に金庫に収め、パトリツィオの番号を削除した。悲しみのあまり、あなたは、そもそも彼の連絡先など保存したことがなかったという事実をすっかり忘れてしまっていた。


完成品

銃騎士の大型銃











銃の名匠パガニーニの名を世に知らしめた作品であり、パトリツィオが銃騎士として初めて手にした大型銃。手工業と軍用規格が融合した傑作。



イディダ


オーダー1:デンタルミラー

【注文番号208】
お客様名:イディダ
こだわりなし。

お客様メッセージ:パガニーニさん、私たちは守護銃にあれこれ注文を付ける気はないんです。うちのイディダちゃんにはもう自分の守護歯ブラシがあるんですから、それで十分だと思いませんか?

------------
冷蔵庫の一番奥にはいつでも、あなたの罪深き楽しみである――アイスクリームが隠されている。早朝、あなたが大きなスプーンでアイスをすくい、口へ運ぼうとした瞬間、突然ドアをノックする音が響いた。

ドアを開けると、隣人の幼い娘であるイディダが、分厚いチラシの束を持って玄関口に現れた。
早朝の訪問に呆れたあなたはこう言った。「まだ五時前だぞ、わかってるのか?」
しかし、女の子はただばちばちと瞬きすると、いたずらっぽく笑った。「でも、おじさんは夜行性のリーベリなんでしょ?」それを聞いたあなたは、ため息をついてからチラシを受け取った。すると、紙面に躍る大きな警告文が目に飛び込んできた。それは糖分の有害性を訴え、摂取を避けるよう注意勧告する内容だった。
あなたはふと、郵便受けにパンパンに詰められていたこの地域のチラシを思い出した。それは、毎週のように投函される、地域の集会への誘いのチラシだった。その集会は、いかにしてスイーツ店をこの街から、そしてラテラーノから徹底的に排除するかを話し合うためのものだという。そうして、あなたはついに、この辺りの家がこれほど安い理由にはたと思い至った。それは、この一帯の住人がフッ素入り歯磨き粉を信仰するイカれた歯医者ばかりで、伝統に則るラテラーノ人であれば、耐えられる者がいないからだ。
「イディダ、何か食べていくか?」
「ありがと!でも、誘惑には負けないからね!おじさんの冷蔵庫に入ってる邪悪なスイーツは受け取れないよ。」
「いいやイディダ、お前はまだ自分の敵をちゃんと理解してないだけだ。」
あなたはぱちりと瞬きして、アイスクリームを一箱彼女に押し付けた。


オーダー2:子供用歯ブラシ

【注文番号208】
お客様名:イティダ
強力歯磨き粉を連想するようなミント色の塗装希望。

お客様メッセージ:パガニーニさんはもう何度も地域集会を欠席していますよね。どうかきちんと出席して、この街の一員としての責務を果たしてください。ご自宅の郵便受けを撤去なさっていたので、こちらでご連絡差し上げるしかなくなってしまいました。

------------
真夜中になっても、あなたは依然、何の気兼ねもなく罪深きアイスクリームを楽しんでいた。すると突然、ノックの音が響き、あなたはドアを開いた。

そこにはイディダが立っており、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。泣きじゃくる彼女の大きく開いた口を覗き込めば、前歯が二本抜けている。
「全部邪悪なアイスクリームのせいだよ!あたし、罰を受けたんだ!だから歯が抜けちゃったんだよ!」
ため息をつきつつ、あなたはティッシュを渡して、彼女を慰めようとした。
「そんなんじゃない。ただ乳歯が抜けただけだろ。」
「乳歯が抜けるのだって罰だよ!サンクタは、甘いものが好きっていう原罪を背負ってるの!」
あなたがどれだけ慰めても、彼女は泣きやまなかった。まるで壊れた蛇口のように、彼女の涙は止まらない。くずかごはすぐに、ティッシュでいっぱいになってしまった。
「どうしたら泣きやんでくれるんだ?」
「うう、わかんないよ……今は乳歯が抜けただけで済んでるけど、そのうち光輪まで虫歯になっちゃったらどうしようって思うと、涙が止まらないの……」
「冷蔵庫に、新しい味のアイスクリームがあるんだ。」
「……」
「食べるか?」
「……食べる。」
「食べたら泣きやんでくれるな?」
少女はしゃくり上げながらアイスクリームの蓋を開けた。甘いアイスクリームの誘惑に抵抗できるサンクタなんざいないんだ、とあなたは内心そうつぶやいた。
「こんなにアイスを食べてたら、おじさんの歯はいつか全部抜けちゃうよ。」
「構うもんか。俺には元々歯がないんだ。胃石で食べ物をすり潰してるからな。」


オーダー3:「甘味の代償」

【注文番号802】
お客様名:パガニーニ
無糖アイスを12箱、フレーバーはミックスで、お急ぎ配達。

お客様メッセージ:来る時はヴァンニ一二に見つからないようにしてくれ。最近は体重管理ができてないってんで、相当見張られてるんだ。

------------
深夜、あなたがベッドの下の小さな冷蔵庫を開けると、アイスクリームはもう残っておらず、そこにあるのはーパック分のサラダだけだった。ため息をつきつつパックの蓋を開けると、聞き慣れたノックの音がまた響いた。
ドアを開けると、驚いたことに玄関口に立っていたのは隣人だった。その人は手に分厚いチラシの束を持っており、来週の地域集会に参加するよう誘ってきた。
あなたはチラシを受け取った。そこに書かれた会議のテーマは、もはや甘いものがこの街に入ってくるのを阻止しようというものではなく、イディダが無糖アイスをラテラーノ全土に広める方法について話し合おうというものだった。
隣人は誇らしげに、チラシに載った少女を紹介した。
「どうです?うちの娘が無糖アイスを発明したおかげで、ラテラーノはついに救われるのですよ。」
「うちの子がこれを発明するきっかけを与えたのが誰かはわかりませんが、その方にフッ素入り歯磨き粉のお恵みがあらんことを!」
あなたは気まずそうに笑い、時間があれば出席する旨を伝えた。
隣人を見送ってから、あなたはテーブルに戻って夕食を取ろうとしたが、タイミングの悪いことに、再びドアがノックされた。
ドアを開けると、イディダが歯の抜けた口で笑みを浮かべていた。
「おじさんは、あたしに無糖アイス発明のきっかけを与えてくれた人だから 、このプロジェクトに投資してみない ?」
「やめとくよ、お嬢ちゃん。」
「じゃあ、あたしの無糖アイスを食べてみない?」
あなたは、パックの中に入っている、ドレッシングのついていない野菜の葉を見やった。
「……もらおうか。」


完成品

無糖アイス











イディダが作った最初の無糖アイス。リピーターは銃工房のパガニーニしかいない。一軒一軒家を訪ねて宣伝したにもかかわらず、ほとんどのラテラーノ住民はそれを異端と見なした。



工房日誌


割れた眼鏡のレンズ

ようやく銃が完成し、連日の作業も終わりを告げた。あなたはソファで身体を丸め、目を閉じて眠りに落ちる。
あなたは子供の頃の夢を見た。母があなたを抱きながら、聖都への長い長い道のりを歩んでいるところだった。
あなたに目を開く勇気はなく、ただ道中の物音に耳を澄ましていた。町では悪意に満ちた噂話が飛び交い、森には恐ろしい咆哮が響き、そして荒野では、略奪者が刃物を振るう音と断末魔が聞こえてきた。
母の翼に頭をすっぽり埋めても音を遮ることはできず、身体の震えが止まらなかった。しかし不意に耳をつんざくような銃声が鳴り響き――瞬く間に辺りは静まり返り、あなたは安らぎを覚えた。
母の懐から顔を上げ、後ろを振り返ると、光輪の下で長銃が煙をたなびかせていた。
その時あなたは悟った。ラテラーノが目の前にあることを。


空の薬莢

ようやく銃が完成し、連日の作業も終わりを告げた。あなたはソファで身体を丸め、目を閉じて眠りに落ちる。
あなたは青年の頃の夢を見た。あなたは師匠の推薦により、優秀な成績で銃器製造学科に進学していた。 あなたは学内の皆が認める優等生ではあったが、卒業後に同世代で最も優れた製銃士になることまでは、誰も想像していなかっただろう。
「パガニーニ、君がサンクタだったら、私の話がもっとよく理解できるのにな。」と、先生が授業で言った。
「パガニーニ、どうした? ああ、そういやお前はサンクタじゃないんだったな。大丈夫、もう一度説明するから。」と、グループを組んだ同級生が言った。
あなたは言葉に詰まり、ただ微笑むと、うつむいて机の上に散らばったパーツを見つめた。先生がかつて、銃の組み立ては奥深い言語のようなものだと語っていたことを思い出す。サンクタたちの言葉がわからずとも、あなたにはパーツの声が聞こえていた。
あなたは銃と対話する達人だった。


写真のないフォトフレーム

ようやく銃が完成し、連日の作業も終わりを告げた。あなたはソファで身体を丸め、目を閉じて眠りに落ちる。
あなたは工房を手に入れたあの日の夢を見た。それはボルゴス通りで一番目立たない片隅にある、極めて地味な工房でしかなかったが、自分の工房を持てたという事実だけで、あなたはこの上ない満足感を得られた。
あなたの人生は銃と深く結びついていた。あなたを救い、あなたの友となった銃が、今やあなたの生活の支えになろうとしている。あなたは銃がもたらすすべてに感謝した。
あの日、あなたはパトリツィオと写真を撮った。彼が大口径遺産機関銃を抱えながら間の抜けた笑みを浮かべると、ジーアはカメラを構えながら、そんなだらしない顔をしないようにとたしなめた。しかし、結局は幸せいっぱいの二人の表情を引き締めることはできなかった。
あなたはその写真をフォトフレームに収めた。パトリツィオとジーアを自分の未来の中に収めるかのように――銃と共に二人を、いつまでも、永遠に留め置くようにして。


銃を持たない彫像

ようやく銃が完成し、最後の仕事が終わりを告げた。あなたはソファで身体を丸め、目を閉じて眠ろうとする。
しかしどうしても眠れなかった。何度か寝返りを打った後、ついに諦めてソファから起き上がる。銃工房は間もなく閉鎖され、関連業務はすべて製銃聖堂に引き継がれることとなる。
今、工房にはあなた一人しかいない。客も、弟子の姿もなく、あなたはようやく工房閉鎖の現実を噛みしめる。生涯を銃と共に歩んできた以上、間近に迫る別れを思うと、胸が締め付けられた。
静かにため息をつくと、あなたは暗がりに腰を下ろし、長年心血を注いできた工房に別れを告げようとした。今この時、あなたの頭にはかけてやりたい言葉がいくつも浮かんでいた。
だが折悪く、ノックの音があなたの思考を遮る。無視するつもりだったが公務員の制服を着た男が勝手に扉を開けて入ってきた。
「……こんにちは、どなたかおられませんか?」


工房の鍵

時刻はまだ早朝。窓から差し込む陽射しが、いよいよ業務を停止し工房を離れる時が来たことを告げていた。
鍵を手に取り、立ち上がって工房を出る。あなたは扉を閉じると、暗間から温かな陽だまりの中へと踏み出した。

0 件のコメント:

コメントを投稿