復刻シラクザーノ(個別行動)
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Cellinia Texas
チェリーニア・テキサス怒りながらも冷静で、停滞しつつも前進している。
かつて離れた雨の街へと、一匹狼は戻ってきた。七年経った今も、ここは何もかもが昔のままだ。与えられた任務を着実にこなすことこそが、ここを去るための近道なのかもしれない。
[ラジオ /RADIO]
道端にぽつんと置かれていたラジオ。オペラが流れている。これを手にした人物は焦りのあまり、角を割ってしまったことにも気付かなかった。
『仕事の前に、口に合うレストランを探そう。』
1-1:ピッツァ・マルティーノ
モブ男A「逃げろ!あいつら戦い始めたぞ!――おいあんた、逃げないにしても道を塞ぐのはやめてくれ!」
テキサス
(……ここは少しも変わらないな。)
周囲の人々が慌てて逃げていく中、テキサスはなおもテーブルの前に座って、運ばれてきたばかりのピッツァを眺めていた。
モブ構成員〈左〉
「あそこにいる奴も、後でまとめて始末しておけ。」
モブ構成員〈右〉
「民間人を殺して面倒起こすのはやめろとか言ってなかったか?」
モブ構成員〈左〉
「死にたがりは別だ。」
モブ構成員〈右〉
「なんだこいつ、すげえやりやがるぞ!?」
モブ構成員〈左〉
「チッ。だったら先に仕事を終わらせろ。その女は後回しだ!」
テキサス
「……」
(……ゆっくり食べてはいられないようだな。)
(ん……カウンターのほうに人影があるな。店主の子供か。)
(一緒に連れ出してやろう。)
モブ構成員〈右〉
「あいつ、出て行ったぞ!追うか?」
モブ構成員〈左〉
「待て、やめておけ。さっきはよく見てなかったが、あの髪と目の色は……帰ったらきちんと調べておく必要がありそうだ。」
END
1-2:新市街の大通り
ピッツァの店でマフィアたちが突然争い始めた。逃げ出す客を守ってやろう。 テキサスは今もこのすべてにうんざりしているが、どうすることもできない。『少し気が滅入ってきた。公園で気晴らしでもしよう。』
2-1:木陰のある公園
テキサス(店主に食事代も渡したことだし、ぶらついてみるか。)
「……」
「あれは何だ?」
綺麗に印刷されたポスターが壁に貼られており、そこには「テキサスの死」という文字が大きく書かれていた。
テキサスは壁のそばに立ってそれを見上げる。
シラクーザに戻ってから初めての笑いが込み上げてきた。
テキサス
「ふっ。」
「『テキサスの死』のポスター」を獲得しました:
ファミリーの名前をタイトルに掲げた作品はこれが初めてだ。楽しみに胸躍らせる人々は、それが何かの変化を意味していることに気付いていない。
END
2-2:新市街の大通り
モブ男B〈ピザ屋店主〉「先ほどうちの子を助けてくださった方ではありませんか!またお会いできて嬉しいです!」
テキサス
「……何かいいことでもあったのか?」
モブ男B〈ピザ屋店主〉
「ははっ、そうなんです。」
テキサス
「……」
モブ男B〈ピザ屋店主〉
「騒ぎを起こしたマフィアたちがどこの連中か、あの裁判官さんは知っていたそうで……奴らのファミリーに今回の損害を賠償させると言ってくださいまして。」
テキサス
「……賠償を?」
モブ男B〈ピザ屋店主〉
「不思議に思いますよね?確かに、力のあるファミリー の連中を前にすると、裁判官に大したことはできないというのが常ですが……」
「あの裁判官さんは違うんです。彼女は本当に私たちの力になってくれるんですよ。それに、あの人にはベッローネがついているので、ほかのファミリーも手出しできませんし。」
テキサス
「……」
モブ男B〈ピザ屋店主〉
「あの方がいてくださるのは、我々からすれば本当にありがたいことです。」
テキサスは気が滅入るのを感じた。それは慣れ親しんだものであり、どこから来るものかも彼女にはわかっている。
彼女は一瞬、あの善良な裁判官を心配したのだが――
それは無用の心配であるとすぐさま証明されたからだ。
END
『監獄の外の看守が何かを話したがっている。』
3-1:ウォルシーニ監獄
看守は廊下を行ったり来たりしている。モブ構成員〈看守〉
「……」
「……」
「……」
テキサス
「聞きたいことがあるなら、聞けばいい。」
モブ構成員〈看守〉
「……あんた、本当にあのテキサスの末裔か?」
「それに……殺しをやったのは本当にあんたなのか?」
「あんたを捕まえたのはラヴィニア裁判官だが、あんたはベッローネの若旦那と一緒に行動してたんだろう。 あの二人、何かあったのか?」
テキサス
「……」
モブ構成員〈看守〉
「答えねえんだったら聞けとか言うなよ……」
「あーあ、外は大騒ぎだってのにこの中はすんごい静かだな。」
「ラヴィニア裁判官が面会禁止って言ってなきゃ、このドアの前には新作オペラのチケット売り場より長い行列ができてたと思うぜ。」
「……あんたは俺に何も聞かねえのか?どういう判決を受けることになるか~とか、全然気にならねえわけか?」
テキサス
「……」
モブ構成員〈看守〉
「……まただんまりかよ。」
ここの壁は雨期の湿気で隅から水が染み出しており、そのせいで服の裾が濡れていることにテキサスは気付いた。
普段ならこの程度の不快感は気にならないが、この時ばかりは彼女も強い嫌悪感を覚えた。
この地の人々は誰がなぜ死んだかなど気にしない。彼らが気にしているのは名前と身分、そして彼らを興奮させるような家名だけだ。
テキサスは壁の角に寄りかかると、うんざりしながら目を閉じた。
END
3-2:ウォルシーニ監獄
ラヴィニア「テキサスさん……龍門での生活について話していただけますか?」
テキサス
「……私は配達員をしていただけだ。」
テキサスの表情がかすかに和らいだ。
ラヴィニア
「ですが、それはきっと単純な配送業ではないのですよね?」
テキサス
「いや……少し複雑なところはあるが、私の仕事はあくまで配達だ。」
ラヴィニア
「そうですか……クロスボウで撃ち合いになったり、警官とマフィアが争ったりということはないのでしょうか?学生時代のルームメイトが大の龍門映画好きで。」
テキサス
「……ゴム弾を使っての撃ち合いや、カーチェイスになるようなことならたまに。それと……独特なセンスのレコードを聴くこともあるな。私の友人たちはそういうものが大好きなんだ。」
「そういえば、以前彼女たちにも似たような質問をされた、シラクーザはどんな所なのか、と。ちょっとした意見の相違ですぐに人を殺す奴がいたり、家を出たらサングラスをかけたいかつい男たちに後をつけられたりするのか……なんて聞かれたな。」
ラヴィニア
「小さなファミリーのいくつかは本当にそうなのでしょうね。」
「ご友人たちは、一緒には来ていないのですか?」
テキサス
「ああ。私は……」
「正直なところ、皆にどう伝えればいいかわからないんだ。」
「……事が終わったら、謝りにいかないとな。」
「……」
ラヴィニアは少しかがむと、目の前のトレーから酒の入ったグラスを二つ持ち上げた。
ラヴィニア
「あなたが早く龍門に帰れますように。」
テキサスがグラスを受け取った拍子に、ポケットからポスターの端が顔を覗かせる。
ラヴィニア
「あら、それは?」
テキサス
「ポスターだ。少し笑えると思ったが、今思えばただの紙切れだし、正直持て余している。」
ラヴィニア
「「テキサスの死」……ですか。」
「私が処分しておきますよ。」
「一杯のワイン」を獲得しました:
酒には様々な意味があり、その一つは「承認」である。
テキサス
「ありがとう。」
ラヴィニア
「乾杯。」
END
3-3:ウォルシーニ監獄
所属不明の武装したマフィア数名に道を塞がれた。家に帰ることこそがテキサスの一番の願いだというのに、それを打ち砕かんとする者たちがいるようだ。
『通りにいるのは一般人ではなく、マフィアのようだ。』
4-A:ペンギン急便のアジト
テキサスが姿を現すと、賑やかだった街が突然静まり返った。人々は互いに探り合いながら、彼女をここから誘い出そうとしている。しかし、彼女に話しかけようとした全員が、ほかの誰かに倒されてしまった。彼らが何かを伝えようとしていたからには、彼女も先手を打つべきだったのかもしれない。4-B:ミラノ劇場の外
劇場の外にある通りは、本来ならこの時間、ウォルシ 一ニで一番賑やかな通りになるはずなのだが、テキサ スが足を踏み入れたあと、瞬時に静けさに包まれた。モブ男A〈左〉
「っ、テキサ……」
その名前を言い終わる前に、男は一瞬にして、闇に紛れた誰かに後頭部を殴られて倒れ込んだ。
しかし、闇に紛れるその人物は姿を現さない。次の人間が近付いてきて口を開くまで。
モブ男A〈右〉
「おい、黙ってついてこい……」
くぐもった音がして、この男も地に倒れ伏す。
テキサスは立ち止まり、街灯の下で周囲の暗闇を見回した。
闇の中で、刃物が身体を切り裂く音と人が倒れる音がする。テキサスは次第に濃くなっていく血生臭いにおいを嗅ぎ取った。
その暗闇から、誰かが彼女を呼んでいる。
まもなく上演されるオペラには龍門から来た女優が出演するそうだ。彼女が演じる役はどれだろう?
〔兄と駆け落ちしたご令嬢〕
〔テキサスファミリーの構成員〕
〔サルヴァトーレと駆け落ちしたご令嬢〕
【サルヴァトーレと駆け落ちしたご令嬢】
闇の中から低い笑い声が聞こえてきたが、彼女が近付いてみればそこにはもう人影はなく、オペラの歌曲が流れるラジオが地面に置かれているだけだった。
その歌声はみずみずしく、美しい。
【不正解】
そこには誰もおらず、オペラの歌曲が流れるラジオが地面に置かれているだけだった。
その歌声はみずみずしく、美しい。
テキサス
「ラジオ……?どういうことだ?このオペラは……女性歌手か……」
「……ソラ?」
END
『ラジオから女性の歌声が流れてくる。ソラに何かトラブルが起きたのかもしれない。』
5-1:ミラノ劇場の外
テキサス「ソラ?」
返事はなく、代わりに闇の中からごそごそと物音がした。
テキサス
「……ソラか!?」
彼女は鋭く一歩踏み出す――
ソラ/ドレス
「あれ、テキサスさん!どうかしましたか?」
道端にある小さな店の前、明かりの下でソラが歌を口ずさみながら、小ぎれいな箱をラッピングしていた。
ソラ/ドレス
「ん?手に持ってるのって……ラジオですか?」
テキサス
「ああ。もう使わないし、捨てるとしよう。」
ソラ/ドレス
「だったら、拠点にはまだないですし、持って帰るのはどうですか?クロワッサンなら気に入るかもしれませんよ。」
〔ラジオを渡す〕
〔いったん離れる〕
【ラジオを渡す】
ソラ/ドレス
「はい、どうぞ。あたしからのささやかなプレゼントです。再会を祝して、ちょっとしたサプライズをと思って。」
「ソラからのサプライズ」を獲得しました:
ソラが久々に再会した親友のために用意したプレゼント 。この時の彼女はまだ、幸運にもテキサスを見つけられた喜びに浸っていた。
テキサスはその小さな箱を大切そうに撫でていて、ふと申し訳なさを感じた。
プレゼントを贈るべきなのは、本来自分のほうだ。
友達に心配をかけ、この混乱に巻き込んでしまった張本人だというのに、それでも今、彼女が手にしているのは友人たちがくれた優しさだった。
テキサス
「……すまない、ソラ。」
「……」
ソラ/ドレス
「……わかってくれたらいいんですよ。」
「なーんて、嘘ですけど!」
「もー、そんな真剣に何言っちゃってるんですか!あたし、先に拠点に帰ってますからね!」
テキサス
「ああ。」
「ソラ!……気を付けて帰れよ。私もすぐに戻る。」
ソラ/ドレス
「はーい!」
END
5-2:ベッローネの屋敷
モブ構成員〈運転手〉「テキサスさん、ベッローネの屋敷に到着しました。どうぞ、車のドアと足元にお気を付けください。」
テキサス
「ありがとう。」
テキサスは扉を開けようとした。
しかし、その時視界の端に捉えたのは、運転手が普段のように車のドアを閉め屋敷の玄関で待つその姿ではなかった。彼は帽子にすら構わず、緊張した面持ちで足早に逃げて行ったのだ。
テキサスの手が一瞬止まる。それを見た一人の構成員がすぐに彼女の前へ出て、代わりに扉を押し開け――
その瞬間、強烈な光と熱が目の前で炸裂し、扉を開けた構成員は一瞬でバラバラになった。
レオントゥッツォ
「(小声) テキサスさん……!?」
テキサス
「まだ生きている。」
「ひとまず伏せて、ケガをしたふりをしろ。――次の連中がいるはずだ。」
「ここへ来る途中、争っている奴らに出くわした。あいつらは恐らく、ベッローネとサルッツォが手を組んだことも、ロッサティに問題が生じたことも知っていて、私を始末する機会をうかがっていたんだろう。これまでは手を出すのを躊躇っていたようだがな。」
レオントゥッツォ
「裏切ったのは誰だ?」
テキサス
「運転手だ。奴はもう逃げた。だが、これは確実に奴一人だけではないだろうな。」
レオントゥッツォ
「……」
テキサス
「誰か来た。気を付けろ。」
END
5-3:ベッローネの屋敷
ベッローネの屋敷に裏切り者が現れた。ケガをしたふりで彼らをおびき寄せるとし よう。 誰も呼んだ覚えのない「医者」や「裁判官」に扮した客に気をつけろ。『ラジオを見つけた場所に戻れば、何かわかるかもしれない。』
6-1:ミラノ劇場の外
ラップランド「あれぇ?どうしてキミがここにいるんだい?」
テキサス
「……」
「まだ用があってな。」
ラップランド
「そう。ボクのほうは、一晩中一生懸命働いてたんだ。」
テキサス
「……」
「私のほうは一晩中の時間を無駄にしたところだ。」
「挙句わかったのは、すべての黒幕がお前だったということだけか。」
ラップランド
「そんな大層な話じゃないよ、テキサス。」
「ボクはキミの道を遮る邪魔者を片付けてるだけさ。そういう障害がなくなったあと、キミが最後の問題をどう解決するのかを確かめるためにね。」
END
6-2:ミラノ劇場の外
テキサス(裏切り者の件はレオントゥッツォが自分で解決するだろう。)
(ソラについても、問題が起きていないことは確認した。)
(あのラジオを置いたのは誰で、一体どんな意味があるんだ?)
ふと、軽快な足音が耳に飛び込んできた。
ラップランド
「ここまで遠回りしてきたけど、戻ってきて言わないといけないことがあったのを思い出したんだ。」
夜明け前の最も暗い時間には、数時間前は通りに横たわっていた死体がすでに消えていた。
ラップランドは小さく鼻歌を歌い、こう口にした。
ラップランド
「ラジオを置いたのはボクだよ。」
END
『エンペラーから話があるらしい。』
7-1:シティホール
エンペラー「お前ら、いつになったら龍門に戻るつもりなんだ?」
「俺はぼちぼち 「ご愛顧いただいたお客様へのご挨拶」 ってのを看板に貼っつけて、店たたむ準備をしようか悩み始めたとこなんだが。」
テキサス
「しかし、まだやることが……」
エンペラー
「おっとそこまでにしてもらおうか。想定通りの言葉なんざ聞く気はねえぜ。」
「ここはひとつ賭けをしようじゃねえか。シンプルに、勝ったほうの言うことを聞くってルールでな。――その辺でテキトーに買ったこのイチゴ味の瓶ジュース、 甘ったるくて味は飽き飽きだが……」
「蓋を使う分にゃあ問題ねえ。さて、表か裏か当ててみな。」
〔表〕
〔裏〕
【表】
エンペラー
「おお、やるじゃねえか。」
「だが、当てたほうが勝ちとは言ってねえよなあ?」
「それに、あの辺を見てみろよ。だいぶメチャクチャな騒ぎだぜ。お前、あいつらを助けに行くつもりなんだろ?」
街には今も散り散りになったマフィアたちがうろついていて、目標を失った彼らは一般市民に視線を向け始めていた。
【裏】
エンペラー
「おーっと、ツイてねえなあ。」
「良くないんじゃねえか、テキサス。」
「それに、あの辺を見てみろよ。だいぶメチャクチャな騒ぎだぜ。お前、あいつらを助けに行くつもりなんだろ?」
街には今もマフィアたちが散り散りになりつつ居座っていて、目標を失った彼らは一般市民に視線を向け始めていた。
テキサス
「ああした住民やマフィアの構成員たちは、何が起きたかを正確に理解していないのかもしれない。」
「それでも私たちは決めたんだ。新都市にマフィアは入らせない、と。」
「であれば私が、あるいはレオントゥッツォやラヴィニアが、我々のやりたいことを彼らに伝えなければならない。」
「一番単純なことから始めていかないと。」
エンペラー
「わーったよ、やりたいようにやれ。」
「……だがなあ、龍門に一人でいるのはマジで退屈なんだぞ!!」
END
7-2:シティホール
まだちらほらと残っているマフィアたちの攻撃から住民を守ってやろう。 危ないところを救われた人々は、誰が本当の味方なのかを知ることになる。住民たちはテキサスの善意を心に留めることだろう。FIN
一匹狼は立ち去ることも、留まることもしなかった 。彼女はシラクーザに目を向けて、怒りを以て変化を促そうとしている。Lavinia Falcone
ラヴィニア・ファルコーネ雨に負けじと伸びたイバラは、傷つきながらも手探りで前へ進んでいく。
ファミリーに属する裁判官が正義を語るのは筋違いかもしれないが、彼女は裁判所に足を踏み入れた時に掲げた理想を決して忘れず、今でもそれを貫いている。
[血のついた法典 /CODICE INSANGUINATO]
ラヴィニアの法典。別の裁判官の血が少し付着している。その血の主もまた、彼女と同じ意志を持つ者であり、その傷は法典に認められたものだ。
『やっと仕事が終わったわ。家に帰りましょう。』
1-1:新市街の大通り
モブ男A「はぁ……はあ……助けてくれ……!そんなつもりじゃなかったんだ!」
モブ構成員〈右〉
「騒ぐんじゃねえ。誰だって目も耳もついちゃいるが、 見聞きしたくねえことはどうせ知らんぷりされるんだからよ。」
モブ男A
「……うぐっ!」
ラヴィニア
「っ!急にぶつかってくるなんて……」
モブ構成員〈左〉
「……げっ。」
ラヴィニア
「……そちらの人、今さら逃げるのは少々秩序を軽視しすぎた行いだと思いますが。」
モブ構成員〈左〉
「チッ、ついてねえ……」
「わかったよ裁判官さん、あんたの言う通りにするさ。」
「だが、そっちの野郎はこの先数日一人で出歩かないほうがいいぜ。」
ラヴィニア
「黙りなさい!」
数日後
モブ男A
「あの、裁判官さん!」
ラヴィニア
「はい?……ああ、あなたでしたか。あの件のあと、例の人に迷惑をかけられてはいませんか?」
モブ男A
「もう大丈夫です。今日はお礼を言おうと思って、この花束を渡しにきたんですよ。」
「……!」
ラヴィニア
「どうしましたか?」
モブ男A
「い、今、角のところにあの人が……!やっぱりまだ目を付けられてるのかも……!」
ラヴィニア
「……ひとまず、ついてきてください。」
「感謝の花束」を獲得しました:
裁判官は彼を助けるためにマフィアを敵に回してくれたというのに、彼はこの花を買った時、再び彼女と関わるべきかどうかをまだ躊躇っていた。
END
1-2:ウォルシーニ裁判所
マフィアに狙われた住民たちを守るとしよう。シラクーザにおいて、法律はたった一人の意志に基づくものである。だが、その意志の代理人たるラヴィニアは、ごく普通の住民さえもしばしば守り切れない無力さを感じていた。
『もうじき審理する事件のファイルを資料室で確認しましょう。』
2-1:ウォルシーニ裁判所
ラヴィニア
「失礼、資料の確認に来たの。許可書はこれよ。」
モブ女
「はい、後ろの資料室ですね。お連れしますので、資料を取ったらこちらにサインをしてください。」
「……あら?お待ちください、ラヴィニアさん――」
「審理に向けた準備をなさるおつもりですか?昨日ほかの裁判官がファイルを提出した際に、この事件の犯人は早々に釈放されたと話していましたが。」
「今はもう、このファイルについては借覧権限しか与えられていないと思いますよ。」
「借りてきたファイル」を獲得しました:
裁判官たちは、資料室に途中で放置されたファイルが大量に置かれている状況に慣れてしまっている。
ラヴィニア
「そんな連絡はなかったけれど……どの裁判官が釈放を命じたの?」
END
2-2:ウォルシーニ裁判所
ラヴィニア(……事件に関わっていたのはベッローネの構成員ね。 見覚えがあるわ。)
(この現状では、彼らも人手が必要なのかしら。)
(それか、彼が受刑するとファミリーの仕事に支障が出るとか……)
(あるいはこれまでのように、「今はその時ではない」 のかも。)
「……」
(「お前はいつか、このシラクーザで真の公正を実現できるようになる」と、あの人は昔言ってくれたけど……)
「……」
(……いつまでこんなことを我慢しないといけないの……?)
「ありがとう。読み終わったからお返しするわ。悪いけど、資料室に戻しておいて。」
モブ女
「はい。」
「えっと……再審要求はなさらないのですか?」
ラヴィニア
「……」
「今は……やめておくわ。」
END
『サルッツォの屋敷から戻る途中、手を振ってきた人がいたの。』
3-1:近道のある公園
モブ女〈右〉「ラヴィニア!良いところに!ほらほら、車を降りて!ちょうどもう一軒行って一杯飲もうってところだったの、一緒に行きましょうよ!」
モブ女〈左〉
「あなたったら、同窓会に呼んでも来てくれないんだから……付き合い悪いじゃない、裁判官さん。今は何がそんなに忙しいの?」
ラヴィニア
「……悪いけど色々忙しくて、今の今まで裁判所で仕事してたところなの。」
モブ女〈右〉
「何言ってるのよ、この辺にあるのは裁判所じゃなくてサルッツォの屋敷でしょ。」
モブ女〈左〉
「あのね……私たちの中でまだ裁判官やってるのなんてあなただけよ。それに、あなたは結婚もしてないし。」
「最近はまた物騒になってきたから、気を付けてちょうだいね。」
モブ女〈右〉
「私はもう吹っ切れちゃったわ!小金持ちのファミリー に近付いて、適当に手伝いをして稼いだら、理由をつけて辞職してほかのことをやったほうが良いでしょ。」
「それなりに毎日を過ごすこと以外に何ができるっていうの?これでも手足を折られた裁判官よりはマシってものだし……」
モブ男A〈昔の同級生〉
「うえっ……」
モブ女〈右〉
「あっ、彼また吐いちゃった。飲みすぎたみたいね……」
END
3-2:近道のある公園
ラヴィニア「……ごめんなさい。やっぱり今はそんな気分になれないから、もう行くわね。」
モブ女〈左〉
「しょうがないわね。その顔見たら、困ってるのはわかるもの。」
ラヴィニア
「じゃあ、また。」
モブ女〈左〉
「またね!」
ラヴィニアは車に戻り、アクセルを踏もうとした。
モブ男A〈昔の同級生〉
「うぅ……」
ラヴィニア
「えっ!?」
モブ女〈左〉
「あははっ、ごめんねー!私たちはまだ飲み足りないから、代わりにその酔っ払いを送ってあげて!」
END
『酔いつぶれた昔の同級生を家まで送りましょう。』
4-1:近道のある公園
モブ男A〈昔の同級生〉「うっ……頼むよ、ラヴィニア。」
ラヴィニア
「……」
モブ男A〈昔の同級生〉
「君はまだ裁判官なんだな。」
ラヴィニア
「ええ。」
モブ男A〈昔の同級生〉
「それはよかった。」
ラヴィニア
「……」
モブ男A〈昔の同級生〉
「学生の頃、俺はずっと……内心君を認めてなかったんだ……成績では負けてないはずなのに、どうして君だけあんなに早く裁判官になれたのか、って……」
「後々聞いた話じゃ……君のバックには、あるファミリ一がついてるって……しかも、あのベッローネだそうじゃないか!」
「俺は思ったよ。あぁ……なるほど、道理で……君は裁判官になれたわけだ、ってね。」
ラヴィニア
「……何が言いたいの?」
モブ男A(昔の同級生)
「……」
「俺は怖かった。」
ラヴィニア
「え……?」
モブ男A〈昔の同級生〉
「君は、後ろ盾を頼って裁判官になったんだろ?そのくらい、俺もできると思ってたんだ。」
「……でも、あいつらが……マフィアの連中が俺を訪ねてきた時……」
「俺は死ぬほど怖かった。一秒だって会話を続けられなかった。」
「……法典は、俺が持てばただの本で……いや、本ですらないんだ。昔はノートでチンピラの頭をはたいたことくらいあったけど、マフィアを前にすると、口を開く勇気すら出なかった。」
「ましてや、正義なんて……何が正義だってんだ……あいつらはどう見たって犯罪者なのに、監獄でも、あるいは法廷でさえも、俺に何かを要求してきて……俺は 、それを拒否することもできなかった……」
ラヴィニア
「あのファミリーの後ろ盾に……助けられていないと言えば嘘になるけれど、それは良いことじゃないわ。」
「私は初めから、彼の言うことなんて信じるべきじゃなかったのかも――」
モブ男A〈昔の同級生〉
「俺は知ってるんだ……実のところ君は、自分自身の意思の力で頑張ってきたんだってことを。君は俺よりずっと勇敢だよ、ラヴィニア。」
「……ボルトロッティが亡くなったって話も聞いた。そうなんだろ?」
彼の手がラヴィニアの法典に触れると、イバラが指の皮膚を裂いて血痕を残した。
モブ男A〈昔の同級生〉
「君たちはみんな……俺なんかより、ずっと勇敢だ……」
END
4-2:住宅街
ラヴィニア「ほら、着いたわよ。」
モブ男A〈昔の同級生〉
「うっ……ごめん、法典に血が……」
〔法典を受け取る〕
〔いったん離れる〕
【法典を受け取る】
ラヴィニアは法典を受け取る。そこには一人の裁判官の血がついていた。
モブ男A〈昔の同級生〉
「君はまだ続けるつもりか?」
ラヴィニア
「ええ。」
ラヴィニアは、今日サルッツォの屋敷で起きたことを思い出していた。
ラヴィニア
「まだ諦めるには早いもの。」
モブ男A〈昔の同級生〉
「それはよかった。この言葉は本心だよ、ラヴィニア。」
「俺にもいつかは、裁判官として戻る日が来るかもしれないな。」
END
『引っ越しの準備をしていたら、何か言いたげな若者が話しかけてきたの。』
5-1:シティホールに行く
モブ男A〈後輩〉「あなたは……ラヴィニア先輩ですよね?」
ラヴィニア
「ええ。あなたは……?」
モブ男A〈後輩〉
「僕、あなたの後輩なんです!前に学校で、先輩のスピーチを聞いたことがあって。あの時は……実を言うと、そこまで本気で受け止めてなかったんですけどね。」
「正直……失礼ですけど、また偉そうな人がご大層なことを言いに来たなと思ってたくらいでした。」
「でも、このところ色んなことが起きたので、自分でも 話を聞いて回っていたら、裁判所の守衛さんがあなた のなさったことを教えてくれて……僕も今では、あのスピーチで仰っていたことが本心だったと信じています。」
ラヴィニア
「それを伝えるためにわざわざ探しに来てくれたの?どうもありがとう。」
モブ男A〈後輩〉
「そんな、お礼を言うべきなのは僕のほうですよ!お陰でこの先何がしたいかがはっきりわかったんですから!」
END
5-2:第二中枢区画の司令塔
モブ男A〈後輩〉「お忙しそうですね。引っ越しの準備ですか?」
ラヴィニア
「ええ。これからは新都市に住む予定だから。」
モブ男A〈後輩〉
「僕にもお手伝いさせてください。……あっ、その前に 、渡しておきたいものがあるんでした……!」
彼は丁寧に書かれた履歴書を取り出した。
モブ男A〈後輩〉
「先輩、これは僕の履歴書です。卒業したらあなたと一 緒に働きたいと心に決めていて……それでお伺いしたんです。」
「あなたのお話にあった、新都市のために力を合わせて努力しようという言葉……あれはまさに、僕がロースクールに入ろうと思った時の初心に響くものでした。」
「それに、あの花束も……」
彼は荷物の中にあるドライフラワーに目を向けた。それに添えられたカードには、市民からの感謝の言葉が記されている。
モブ男A〈後輩〉
「僕もあなたみたいに、市民から花を贈ってもらえる人になれるよう頑張ります。」
ラヴィニア
「であれば、その花をあなたの入職証明にするのはどうかしら?」
「とはいえ、もう一度聞いておきたいのだけど……本当によく考えてみたの?私と働くということは、ウォルシーニに残るよりも多くの困難に遭遇するということよ。」
「……私自身も、次にどうするべきかを完全に理解しているわけではないし……」
「これは簡単な道ではないのよ。」
モブ男A〈後輩〉
「はい。覚悟はできています。」
ラヴィニア
「その言葉を聞けて……すごく嬉しいわ。」
モブ男A〈後輩〉
「荷物は積み込み終わりましたが、すぐに出発なさいますか?」
ラヴィニア
「ううん、そうね……その前に、故人を悼みに行くわ。」
モブ男A〈後輩〉
「あっ、それなら僕は外しましょうか……」
ラヴィニア
「いいえ、一緒に来てくれても構わないわよ。」
「あの人は私の友だっただけでなく、この都市にとっても馴染み深い人だったから。」
「誰のことを言っているかはわかるでしょう。就任演説中に亡くなった新しい建設部長のことよ。」
「彼が去った時はまだ何もわからなかったけれど、ことが落ち着いた今、彼に会いに行かないと。」
モブ男A〈後輩〉
「あの方は一体なぜ……」
ラヴィニア
「……彼自身が決めたことよ。」
「はたから見れば、未確定な将来のために命を捨てるなんて、価値のないことなのかもしれない。」
「だけど私は、混乱した時代にこそ、固い意志には価値 があると思うわ。去っていった時の彼は確かに独りだったかもしれないけれど、この道に立つ彼は、決して孤独ではないのだから。」
「同じ道へとあなたが進んできてくれたのを知れば、彼はきっと喜ぶでしょうね。」
「でも、私は自分の情けなさも感じてしまうの……」
「人々を目覚めさせるには、道を切り開く人がその命を以て啓発するしかないのなら、私の覚悟は初めから足りなかったのかもしれない。」
「私は以前、レオンに不満を持っていたの。――彼が街に転がる名もなき死体に目を向けるのは、建設部の仕事に関わる時だけだったから。でも、私はそれとどう違うっていうの?先人が本当に命を捧げたのを見て初めて、私はようやく目が覚めたのよ。」
モブ男A〈後輩〉
「そんなことありませんよ、ラヴィニア先輩。そもそも、こうなっても踏み出しくない人だってたくさんいますから。」
「結局、今日ここにいるのも僕だけですしね。大方の人はまだ傍観に徹してますが、僕自身も、自分の価値観でしかこの判断が間違ってないと確かめることはできませんし。」
「だけどそもそも、今から十年後、百年後に、これがどう見えるかなんて誰にもわかりませんよね。後世の人は僕たちを称賛するかもしれませんし、軽蔑するかも しれません。一番可能性が高いのは、忘れ去っている ことでしょう。」
「人々は今を生きようとするものですし、もちろんそれは何も悪いことじゃありませんから。」
「ただ……一つだけお伝えさせてください。」
若者はふと真剣な顔をした。
モブ男A〈後輩〉
「レオントゥッツォ・ベッローネのことです。彼はもうファミリーの跡継ぎではないと言ってはいますが、僕 はまだマフィア出身の彼を信じることはできません。」
「結局、彼は僕らとは違う道を進む人なんです。今後何かがあった時は、僕があなたをお支えしますよ。」
ラヴィニア
「……え?」
「後輩の履歴書」を獲得しました:
綺麗な字で書かれた履歴書からは、持ち主が慎重で真面目な人物であることがうかがえる。その存在は一種の希望だ。
END
FIN
法の正義を執行するより、これからはペンを手に取って、新たなルールを作り上げたいと彼女は考えている。
Leontuzzo Bellone
レオントゥッツォ・ベッローネ揺れる時代の縮図にして、群狼たちの迷える主。
ファミリーの跡継ぎは、ファミリーのために動かねばならない。それでも彼は、父が定めた方向は正しいのかどうか、自分は何を選ぶべきなのかを、諦めずに考えている。
[贈られた短剣 /CINQUEDEA DI FAMIGLIA]
ファミリーの一員であることを象徴する短剣。父から息子へ手渡された贈り物であり、父の、そしてドンの承認と期待の証。
『ファミリーの仕事を任された。あの役人の件を片付けるとしよう。』
1-A:グランドウォルシーニ
それはさほど大きくもないパーティーでのことだ。レオントゥッツォ
「事態の解決は簡単だ。素直に従ってくれるのなら、俺もマフィアの常套手段を用いるつもりはない。」
「こちらとしては、金の一部を支払ってもいいし、政府とのツテでそちらの問題を解決しても構わない。ただ時が来たら、俺たちの仕事を手伝ってくれればそれでいいんだ。」
テーブルの向こうの男は急いで口を開きはせず、ただグラスの中の酒を揺らした。
モブ男B〈部長〉
「……」
「仮に私が今日それを承諾すれば、普段から敬意を持って接してくれる役人たちが今後は態度を変えるかもしれない。」
「いかなる利益によっても動かされない私でなくなった ら、彼らの支持を失うことになるだろう。」
「私にとって、名声はより重要なものでね。」
レオントゥッツォ
「では、残念だが……」
「交渉決裂だな、部長殿。」
END
1-B:新市街の大通り
一人の男が街を足早に歩いていく。その後ろには黒い服の若者が付いてきていた。人混みの中、二人はわずかに歩調を合わせる。
レオントゥッツォ
「部長殿、例の件についてだが。」
「そちらも、明日の新聞すべての見出しを賑わせたり、 数日後から喜劇のネタにされてそれが劇場で演じられたりするよりも、すぐに解決したほうがいいんじゃないのか。」
モブ男B〈部長〉
「……」
レオントゥッツォ
「先にも言った通り、話に乗ってくれるなら俺もマフィアの常套手段を用いるつもりはない。そちらはただ時が来たら、俺たちの仕事を手伝ってくれればそれでいいんだ。」
男は一瞬心が動かされたような顔をしたが、それはすぐさま脅された時に見せるような表情に塗り替えられた。
モブ男B〈部長〉
「……言っている意味がわからないな。」
「人通りの多い道で引き留めるのはやめてくれ。それと、これ以上私につきまとわないでもらいたい。」
END
『芳しくない結果に終わったが、ひとまずファミリーの元に戻ろう。』
2-1:ベッローネの屋敷
レオントゥッツォが書斎のドアを押し開けると、部下が彼の報告を待っていた。レオントゥッツォ
「うまくいかなかった。」
モブ構成員〈部下〉
「そうですか……しかし、それは奴がほかのファミリーにつくこともないという証明にもなりますよ。ですから、そこまで悪いことでもないかと。」
レオントゥッツォ
「ディミトリを書斎に呼んでくれ。」
END
『ディミトリが何か言いたげにしている。』
3-1:ベッローネの屋敷
ディミトリ「リンゴでも食うか?」
レオントゥッツォ
「……」
ディミトリ
「レオン、あいつは単なる頭の固い役人だぞ。新しい方法が通用しないなら、いつものやり方でやればいいだけだ。」
「俺も付いていってやろうか?」
レオントゥッツォ
「お前はただこの機に乗じて身体を動かしたいだけだろう。」
「……まあ、拒みはしないが。」
隣に立つディミトリが眉を上げた。
ディミトリ
「へえ、いいのか?お前もばかげた自分の流儀を掲げ始めたもんだとばかり思ってたが。」
レオントゥッツォ
「……俺は考えていたんだ。」
ディミトリ
「何を?」
レオントゥッツォ
「あいつは自分のことを、俺たちが考えるよりも価値があると思っているだけなんだろう。」
「だが、俺も俺で、一番効率的な方法を見つけたいだけだ。」
「――行くぞ。」
END
3-2:旧市街
レオントゥッツォ「着いたな。」
ディミトリ
「じゃ、行ってくる。」
ディミトリ
「終わったぞ。奴は同意するとさ。明日、向こうのほうからお前を訪ねてくるだろう。」
レオントゥッツォ
「……お前、その格好のまま出てきたのか?」
ディミトリ
「大事なペットを抱いて泣いてる飼い主がいるってのに 、人の家でシャワーなんか浴びらんないだろ。」
「そもそも、食事中に自分ちの使用人もガードマンも全員入れ替わってることに気付いたら普通はビビるだろうし、そんな時向かいに座った奴の服が血で汚れてても誰も気にしないって。」
「ただ、正直俺も惜しいとは思ったよ。あいつのペットは実際相当良かったからな。」
レオントゥッツォ
「向こうが同意してきた以上、もっと良いものを見つけてやろう。」
「きっと気に入ってくれるはずだ。」
END
『ソファーで目を覚ますと、ファミリーのほとんどはすでに劇場へ向かっていた。』
4-1:ベッローネの屋敷
レオントゥッツォ「親父は?」
モブ構成員〈部下〉
「ドンは劇場に向かわれました。」
レオントゥッツォがソファーに沈み込むと、そばにいた部下はすぐに察してその場を離れた。
レオントゥッツォ
(闘争、ゲーム、牙……)
(グレイホール、シラクーザ、ベッローネ……)
(親父……)
彼は眼を開き、壁に掛けられた短剣に目を向けた。それは何年も前に父から贈られた、父の、そしてドンの 承認と期待の証だ。
〔短剣を手に取る〕
〔いったん離れる〕
【短剣を手に取る】
END
4-2:ベッローネの屋敷
彼は短剣を手に取って、書斎の扉を押し開けた。ベルナルドの書斎は広々として明るく、中央の椅子には今、その主はいない。
レオントゥッツォ
「親父。」
「……」
「俺は子供の頃から、ベッローネファミリーがどうあるべきかをずっと考え続けてきた。」
「「狼の主」を見た時、あれが自分や俺たちファミリーよりも上位の存在だということを受け入れたくないと思った。」
「これまで受けた教育も、俺自身の行いも、高次の存在からしてみれば単なるゲームの一環にすぎないのか?」
「親父はそんな気持ちを抱えたまま、当主の承認を象徴するこの短剣を俺に渡したのか?」
「……たとえここに親父がいたとしても、俺の質問には答えてくれないんだろうな。」
「あんたからすれば、今の俺は聞かん坊の息子で、跡継ぎたる資格なんてないのかもしれない。」
「だが、俺は自分のアイデンティティを否定したことなんてないんだ。」
「親父が間違っているのなら、俺はそれを証明しよう。 俺が間違っているのなら、自分の行いをすべて見直すことにしよう。」
「他人が命を懸けて戦っている時に、一人家に隠れてそれを見ているなんて絶対に御免だ。」
END
4-3:ミラノ劇場
レオントゥッツォ「オペラは何時開始なんだ?」
モブ構成員〈部下〉
「三十分前に始まってます。」
レオントゥッツォ
「それなら、遅すぎるということはないな。」
彼は劇場から飛び出していく一般客らを見やった。
レオントゥッツォ
「このまま諦めたくない人間からすれば。」
END
『ラヴィニアと会って話をしよう。』
5-1:電波塔周辺
レオントゥッツォ「……あぁ、いつの間にかこんなところまで来ていたんだな。」
(しかし、これでも見つからないということは、彼女に避けられているのか……)
(だが、自分の考えを証明するためだろうと、突破口を追求するためだろうと、無暗に行動しないでくれよ、ラヴィニア。)
(……あんたが命を懸けるのに値するものなんてないんだから。)
END
5-2:近道のある公園
レオントゥッツォ「……普段の散歩道にはいないな。」
(それもそうか。こんな時に散歩なんかしないだろうし……)
(だったら、俺は何のために彼女を探しているんだろうか。)
(彼女を止めるためか?俺自身の目的について話すためか?それとも、無意味な慰めでもするためなのか?)
(あるいは、俺がこうしているのは彼女と関係のないことなのかもしれないな。当主の考えに賛同できない跡継ぎは、混乱の中でいまだ状況をはっきりと見ることのできないような奴は、一体何をすべきなんだろうか。)
END
5-3:ミラノ劇場の外
レオントゥッツォ「……いつもオペラを観ている劇場にもいない。」
(前回この劇場に来た時は、親父もまだあんなことをしていなかったのにな。)
(サルッツォと手を組んで、ロッサティのドンを殺そうとするなんて……結局、昔のマフィアたちと何一つ変わらないじゃないか。)
(……俺たちのファミリーは今も古臭いままだ。)
END
『葬儀のあと、偶然何人かの住人とすれ違った。』
6-1:シティホール
モブ男A〈左〉「ベッローネの若旦那だ……ほら、さっさと行こう。」
モブ男A〈右〉
「じろじろ見るなよ。多分葬儀が終わったばかりなんだろう……」
レオントゥッツォ
「……」
住民たちはうつむいたまま足早に離れていく。
レオントゥッツォ
「……なあ、お前たち……」
モブ男A〈左〉
「ひっ!すみません、何も見てませんから!」
レオントゥッツォ
「……」
「……うまくいかないな。」
「ベッローネなき今、俺は単なる一般人なのに。」
END
6-2:シティホール
モブ男A〈左〉「……」
「ええと、す、すみません、僕たち……」
「本当に何も見てないんです……!」
レオントゥッツォ
「……」
レオントゥッツォは口を開いたが、言おうとした言葉はそれに続かなかった。
彼はあることに気付いたのだ。
レオントゥッツォ
(親父の考えは、実現するとは思えない。)
(一般市民がマフィアから離れることができたとしても 、それ以外のどんなシステムに適応すればいいのかを考えられないからだ。)
(そうなれば、彼らは再び前と似たようなシラクーザを作るだけだろう。)
(となると、ファミリーの存在しない都市を作るという俺の考えを、皆に理解し受け入れてもらう必要がある。)
(でなければ、彼らの目に映るヌオバ・ウォルシーニは 「ベッローネの若旦那」である俺……つまりはファミリーの支配下に置かれた新都市にしかならないだろう。)
(そうなってしまったら、俺たちの望む変革に気付いてもらうことはできない。)
END
6-3:シティホール
モブ男A〈左〉「そ、それじゃ……僕らはこれで……」
レオントゥッツォ
「……」
公園はとても静かで、遠くには余暇を楽しむ住人たちの姿もある。人々の影が行き交う中、レオントゥッツォは見覚えのある後ろ姿を見た気がした。
その背を見た時、彼は一瞬無意識のうちに息が詰まった。あの時グレイホールでした会話は、はっきりと覚えている。
レオントゥッツォ
(ミズ・シチリア……?)
彼は姿勢を正したが、その姿はすでに消えていた。
レオントゥッツォ
「……」
仮に彼女が来ていたとして、本当にここで会ったとしても、きっと「お悔やみに来た」と言われるだけだということは彼もわかっている。
しかし、彼は皆が期待するものを、自分が次に成すべきことを知っていた。
レオントゥッツォ
「裁判を開いてもらおう。」
「誰もが目にするような形で、俺の裁きの場を作るんだ。」
END
『ラヴィニアに相談しなければ。』
7-1:ベッローネの屋敷
ラヴィニア「お帰りなさい。」
レオントゥッツォ
「ラヴィニア……俺たちだけが自分の考えに従って行動したところで、理想を真に実現することはできないと思うんだ。」
「だから、俺たちは何かしないとならない。この混乱を経験した人々に、俺たちが新たな都市を、新たなシラ クーザを築き上げることを受け入れ、信じてもらえるように。」
「このことを、彼らから遠く離れた俺たち一部の人間による希望的観測だと思わせないように。」
「そうして初めて、俺たちの理想を現実のものにできるわけだからな。」
END
FIN
狼の子は一つ大きくなった。今の彼に必要なのは、 さらなる時間と経験だけだ。Lappland Saluzzo
ラップランド・サルッツォ平穏ならぬすべてからの解放を望む、満たされた抜け殻。
かつて追い出された雨の街へと、一匹狼は戻って来た。彼女にとっての泥沼であるこのシラクーザを抜け出そうとする者たちの行く末に、彼女は興味をそそられている。
[古い写真 /VECCHIE FOTO]
一枚の古い写真。そこに写る少女は正装を身にまとい、カメラのそばに立つ人物にあどけない視線を向けている。彼女の面影がなければ、これがかつてのラップランドの写真だなどと誰が信じるだろう。
『ファミリーの会議室に戻ったら、また仕事を任されちゃった。』
1-1:サルッツォの屋敷
アルベルト「行け。俺を失望させるなよ。」
ラップランド
「それじゃあまたね、敬愛なるお父様。」
「ご機嫌よう。」
そう言って一歩後ろに下がり、椅子に座る父にうやうやしすぎるほどのお辞儀をすると、ラップランドは身をひるがえして部屋を出た。
会議室にいた数名の構成員たちは安堵の息をつく。
そして一人が一歩前へ出て、アルベルトの後ろに立った。
アルベルト
「聞いてたな?」
モブ構成員
「はい。」
アルベルト
「よし、行け。」
ラップランドを追って、人影は廊下へと消えた。
ラップランド
「じゃあ、もう一回説明するね。ボクは借金の取り立てを頼まれたからここに来たんだ。」
「元本は支払いが終わってるけど、利息が残ってるんだよね。」
誰かの身体が地面に倒れる重たい音が部屋の中から聞こえた。
ラップランド
「……アハッ。」
モブ構成員
「あいつ、相手を殺したのか?」
彼はすぐに任務失敗を報告しに行くことはせず、慎重にその場で観察を続けて、ラップランドが去ってからしばらくしてようやく死体を確認しに近付いた。
だが、彼はすぐ問題に気付いた――「死体」はまだ生きていたのだ。
その上それは目を開けた。
ラップランド
「本当に引っかかるなんて。」
「キミはアルベルトの差し向けた監視人だろう?」
ラップランドは足元の武器を拾い上げると、目を細めて眼前の人物を見た。
ラップランド
「どんなデザートが好きか、教えてくれる?」
ダンブラウン
「あれは……」
「……ラップランドお嬢さんか?」
「見間違いじゃねえみてえだな……」
酒瓶を置いた洗車工は、月光の下に刃の影を見る。
ダンブラウン
「はーあ、満足満足……」
彼はそのまま、酒瓶の間で酔いつぶれた。
END
1-2:裏通り
じっくりと待ち、彼女はサルッツォが差し向けた監視人をおびき出した。そうして、ラップランドは笑った。
『ボクの行動にすっごく不満を持っている人が大勢いるみたいだね。』
2-1:サルッツォの屋敷
ファミリーの内部ではラップランドへの不満が高まっており、誰もが彼女の反応を待っている。ラップランドは武器を拾い上げた。
2-2:サルッツォの屋敷
アルベルトに任された仕事を片付けよう。父が探りを入れてくるのは、娘に失望したくないからだとラップランドは知っている。しかし、その期待に応えるつもりはないようだ。
『カポネが頼みごとをこなしてくれたみたいだ。』
3-1:新市街の大通り
ラップランド「持ってきてくれた?」
カポネ
「ああ。まさかこんな古い写真を手に入れるためだけに 、サルッツォの屋敷に連れていかれるとはな。」
「使い慣れたナイフを三本も持ってきたってのに、それを全部箱こじ開けるのに使うなんてよ。」
ラップランドは返事もせずに写真の山を漁り始めた。
ラップランド
「あっ、見一つけた。」
「……ぷふっ。」
彼女は写真を指でなぞりながら、不愉快な笑い声を上げる。
ラップランド
「小さいキミときたらとっても無邪気でかわいいね。」
「……この時、キミは何を考えてたのかな?」
END
3-2:裏通り
燃える写真が発した煙でいぶされた草むらから、グレ一と白の模様がついた鼷獣 (けいじゅう)が飛び出してきた。ラップランド
「わあ、こんなところに小動物がいるなんてね。」
ラップランドは鼷獣の後ろ首を掴んで持ち上げ、足が地面から離れて慌てるそれを眺める。
ラップランド
「アハハッ、怖いのかい?」
「首根っこを掴まれて身体の自由を奪われるのは誰だって嫌だもんね。」
その言葉を証明するかのように、鼷獣はラップランドの指を咬もうとした。
ラップランド
「そうそう、それだよ!抵抗はしてくれないと。」
言うと、彼女は鼷獣を手の平に乗せてやった。
ラップランド
「昔、キミによく似たお友達を飼ってたことがあるんだ。」
「その子には最高のケージと食べ物と、ふかふかな木くずを用意してあげてたし……」
「綺麗に着飾らせてあげもしたんだけど……」
鼷獣に人の言葉が通じるはずもなく、それは手の上を嗅ぎ回っている。
ラップランド
「見れば見るほどそっくりだね。」
「じゃあ、一緒に帰ろうか?」
彼女が残りの写真を火に投げ込むと、そこに写るすでにぼやけた輪郭を炎が飲み込んでいった。
END
『小屋に行って鼷獣(けいじゅう)の様子を見てみよう。』
4-1:裏通り
ここは拠点とすら呼べない、適当に見つけたその辺の小屋だ。ラップランドは時折、ここでカポネとガンビ一ノに会っている。今日はただ鼷獣に餌をやりに来ただけだったのだが、 扉を開けずとも中で何が起きているかはわかった。
強烈な焦げた臭いが鼻腔に突き刺さる。いつも通りなのは扉だけだ。
ラップランド
「……」
モブ構成員
「……バレた!行くぞ!」
彼女が扉を蹴り開くと、中には濃い煙が立ち込めており、テーブルの中央に置かれていたはずの鼷獣のケージは地面にひっくり返っていた。
周りを見渡すと、すべてが切り刻まれ火をつけられている。それはよく知るやり口だ。
彼女は武器を手にそこを出た。
END
4-2:裏通り
アジトを燃やしたマフィアたちを追いかけよう。彼らは数日前サルッツォの屋敷からなくなった古い品物を口実に、この「処分」に名目を与えようとしているのだとラップランドは気付いていた。それに気付いている以上、彼らに二度と口を利かせるつもりはない。
4-3:木陰のある公園
ラップランド「ああ、本当に面白いね。」
「何もかも燃えちゃったのに、キミはまだそこにいるんだから。」
彼女は古い写真を一枚手にしていた。
〔写真を指でなぞる〕
〔いったん離れる〕
【写真を指でなぞる】
そこには十歳前後の銀髪の少女が写っていた。サルッツォ式の服を丁寧に着こなして、懸命に真剣な表情を浮かべている。
その視線はカメラではなく、カメラのそばへと向けられていた。
ラップランド
「ボクの最愛のお父様。」
彼女はその写真を胸に押し当て、まるで夢心地でいるかのように独り言を口にした。
ラップランド
「ボクがまだ小さい頃から、サルッツォファミリー唯一の継承者として、どのように事を運び、どのように話し、どう振る舞えばリーダーシップを身につけられるかを教えてくれたよね。」
「あの頃はまだ、アナタがボクのお父様であるだけでなく、サルッツォの当主でもあるってことを、ボクは理解してなかったんだ。」
「お父様に逆らえば自由を得られると思ってたけど、後にして思えば、アナタもファミリーに支配されていたんだよね。」
「ああ、ううん。アナタはあれを支配だなんて思ってないんだろうね。」
その手は写真を少しずつ引き裂いていく。そうしてついにはあどけない顔だけが残った。
彼女と彼女の目が合った。
ラップランド
「当主とはこうあるべきものだって、アナタは思ってるんだもの。当然、その子は生まれながらに、アナタの可愛い娘じゃなくて、ファミリーの跡継ぎなんだよね。」
「ハハッ、ボクったら鋭い爪を無理やり付けられたひ弱な羽獣みたいに見えるな。」
「……ボクはこの素敵なプレゼントが気に入ってるんだよ、お父様。」
「とっても、とってもね。」
彼女は紙くずとなったそれを穴へと投げ入れた。
穴の中にはすでに、黒く焼け焦げた小さな鼷獣が横たわっている。
ラップランド
「だからキミはやっぱり死んじゃうし、その写真は燃えないし、ボクも逃げられないんだ。」
「最愛のキミはまたしても、最愛のお父様の手で死んでしまった。」
火中の目は彼女を見ていた。
ラップランド
「……ハハハッ!」
END
『カポネが何か話したがってるみたい。』
5-1:シティホール
グレイホールを離れると、ラップランドは人々の視界から消えた。ウォルシーニを離れる間際になって、彼女はまだ終わらせていない仕事の存在に気付き――
もう一度振り返った。
ラップランド
「……本当に名残惜しいよ。」
ガンビーノは手を振ると、何も言わずに身をひるがえして去っていった。
カポネはしばらくそこに立ち止まっていたが、しばらくしてからようやく足を踏み出した。
ラップランド
「相手の首にナイフを突き立てるお芝居はもうしないの?」
カポネ
「なんでまだいるんだ、あんた……いなくなったもんとばかり思ってた。」
ラップランド
「ガンビーノは行ったんでしょ?」
カポネ
「ああ。なんとかいうファミリーでやっていくってよ。」
「……あんたに何か言われる前に、言っときたいことが あるんだ。」
カポネは、次の言葉を言い終えたあと何が起きるかわからないまま、顔色一つ変えもしない目の前のその人を見やった。
カポネ
「前に言われたように、俺はあんたから答えだの道だのを見出せやしないだろう。」
「俺も覚悟を決めたんだ。」
ラップランド
「へえ。」
カポネ
「……「へえ」って、あんたな……」
「それだけか?」
ラップランド
「じゃあ行こうか、カポネ。」
END
5-2:新市街の大通り
彼は少し緊張していた。ラップランドが何をしようとしているのかわからなかったのだ。これまでの経験則からすると、自分はよくわからないまま刺し殺されるか、わけのわからない嘲笑や怒りを受けることになるだろうと彼は思っていた。
しかし今、目の前の彼女はただ軽快な足取りで前を歩き、一歩一歩新市街のあるほうへと進むばかりだ。
彼は一足早く去ったガンビーノが羨ましくなってきた。
カポネ
「……これはどこに向かってるんだ?」
ラップランド
「キミを送って行ってあげようと思って。」
カポネ
「……」
「俺はもう、あんたのあとを追わないって決めたんだ。」
「ガンビーノも俺も、この先どうするかは決めてたし、 あんたとは何の関係もない。」
「あんたは自分の道を行け。俺は違うほうを目指す。」
ラップランド
「……んー。」
「ボク、何も言ってないよね?」
カポネは袖口に隠したナイフを握り締める。
ラップランド
「ボクはただ祝福をしにきただけなんだよ。」
「逃げている……正確には、ボクの支配に抵抗しているキミをね。」
「仮に、キミが最終的にシラクーザで足掻くことを選んだとしても、それは悪くないと思うよ。」
「ほら、ナイフをしまって。ボクは見送りに来ただけなんだから。」
カポネ
「……」
彼はまだ、ナイフを固く握り締めている。
ラップランド
「まだわからないの?キミがやってることをおかしいだなんて思わないし、腹が立ったりもしてないよ。」
「だって、キミは自分の道を進んでるだけなんだから。」
「――それじゃあね。」
カポネはしばらく沈黙した。
そして、ようやく身をひるがえして去っていく。
ラップランドは再び振り返り、ウォルシーニと反対の 方向へ――荒野へと向かった。
黒い霧が彼女の背後で凝縮していく。
END
FIN
一匹狼は泥沼を抜け出し、握っていたものを手放して、荒野へと足を踏み入れた。Giovanna Rossati
ジョヴァンナ・ロッサティ「過ぎ去りし美しい日々よ、どうか戻って来てちょうだい。」
クルビアのファミリーがこのシラクーザで足場を固めようとする以上、手段を選ばず力をつけたほうがいいのかもしれない。だが、彼女には自分なりの、越えてはいけない一線があるのだ。
[万年筆 /STILOGRAFICA]
高級な万年筆。大切に使われており、幾千回文字を綴ってきたことで、ペン先が最高に書きやすい形になっている。
『ファミリーの問題に対処しないと。』
1-1:ロッサティの屋敷
モブ構成員「ドン、今日のスケジュールは調整しておきました。ウォラックさんの確認も済んでます。」
「ただ、一つ直接ご確認いただきたいものが。薬関係なんですが……こちらが資料です。」
ジョヴァンナ
「貸してちょうだい。」
END
1-2:ロッサティの屋敷
モブ構成員〈マルコ〉「こいつはトリマウンツに実験室を置いてまして、この新しい薬を精製するための産業チェーンを持ってるんです。」
「これを市場に流すために、うちの資金と政府関連の保護が必要なんだとか。」
ジョヴァンナ
「マルコ、この取引でうちにはいくら入ってくるの?」
モブ構成員(マルコ)
「初年度で投資分は十分回収できる見込みですし、今後も年々取り分は増えていくかと。こいつはかなりの儲けになりますよ。」
「それに、もしうちで受けなかったら、奴は恐らくクルビアのほかのファミリーを訪ねるでしょうね。」
ジョヴァンナ
「……」
モブ構成員〈マルコ〉
「ドン?」
ジョヴァンナ
「ある程度害のない取引であれば全員に利益をもたらせるでしょうけど、この薬はダメね。」
「これはたくさんの人を滅ぼしてしまうから。」
モブ構成員〈マルコ〉
「……」
「わかりました。」
「そういえば、ウォラックさんはもう書斎であなたを待っていますよ。」
END
1-3:ロッサティの屋敷
ウォラック「ブランデーでいいですか?」
ジョヴァンナ
「ええ。」
ウォラック
「じゃあ、そのように。そうそう、ブツの準備はできてますよ。」
彼女は小包を受け取った。
「役人への賄賂」を獲得しました:
何の変哲もない小包。役人たちは、これを開けた時に何を得て何を失うことになるのかをよく知っている。
ジョヴァンナ
「パーティーは三十分後?」
「次は私の代わりにあなたが行ってもいいかもね。」
ウォラック
「ドン……」
ジョヴァンナ
「冗談よ。」
ウォラック
「……あの取引、本当に断るおつもりですか?」
ジョヴァンナ
「あら、不満?」
ウォラック
「あなたのご判断ですから、俺に意見なんてありませんよ。」
ジョヴァンナ
「――ウォラック。」
「利益の追求には節度を持つべきよ。」
ウォラック
「……はい。」
END
『終わってない仕事がまだたくさん残ってるわね。』
2-1:グランドウォルシーニ
ジョヴァンナ「約束通り、ロッサティはあなたの薬物ビジネスには干渉しないし、邪魔もしない。」
「あなたは成功するって信じてるわ。」
ジョヴァンナは手を差し伸べて、向かいの男と握手した。
男は視線を巡らせて、彼女の背後にいる人物の顔に隠しきれない何かを読み取れないか確かめる。
ウォラック
「……」
しかし、彼は結局何も得られなかった。
モブ男B
「では、これにて失礼いたします。」
路地に停められた車のそばで、二人組が果物を選んでいた。
ジョヴァンナ
「あれってマルコよね?」
ウォラック
「……そうみたいですね。」
ジョヴァンナ
「私的な取引は禁止と言ってるのに、それでも副収入を欲しがる部下は後を絶たないのよね。私もそういうものを完全にシャットアウトする気はないんだけど……」
ウォラック
「あいつがルールを破ったことは確かです。そんな奴はファミリーには必要ありません。」
ジョヴァンナ
「じゃあ、事が済んだら、果物屋の店主に掃除代を渡しておいてちょうだい。」
ウォラック
「はい。」
END
2-2:裏通り
果物屋で、見覚えのある姿を見た。許可なく取引をした構成員は処分しなければならない。ルールを守れない人間は、ファミリーには必要ないのだ。
2-3:ミラノ劇場
ジョヴァンナ「あなたはこの愛を謳う劇の只中で、命を奪う約束をしたいというの?」
モブ男B〈役人〉
「政府のほうでできることなら何でもするとお約束しますので……」
ジョヴァンナは目の前の小さなテーブルに小包をそっと置いた。
ボックス席の入り口にいた男が近付いてきて、頭を下げるとそれを上着の内ポケットに入れ、代わりに一本のナイフを置いた。
モブ男B〈役人〉
「私にナイフは扱えません。どうか代わりに使ってください。」
「役人の証」を獲得しました:
役人たちはこういうところで油断などしない。彼らは時折、呼称やお辞儀の一つだけで服従を示す。
ジョヴァンナ
「その小包を開けて中身を見たら、すぐにでもどのファミリーにつくかを考え直したくなるはずよ。」
モブ男B〈役人〉
「か……感謝申し上げます……で、ですが……」
ジョヴァンナ
「あなたはそこに居続けてくれるだけでいいわ。」
モブ男B〈役人〉
「ありがとうございます……」
ジョヴァンナ
「いつかあなたの助けが必要になるかもしれないし、その時は物惜しみせずに応じてほしいものね。」
END
2-4:ロッサティの屋敷
ウォラック「ステファノファミリーの動き、お気付きですか?」
ジョヴァンナ
「……あの外食産業の半分を掌握している人たちのこと?」
ウォラック
「あの連中、クルビア軍の事業を請け負ったようですよ。」
ジョヴァンナ
「そう。」
ウォラック
「それで奴らの懐には……もうこれくらい入ってるとか。」
ウォラックは手で数字を示した。
ウォラック
「それほどでかい額じゃありませんが、話がまとまればあと十年、あるいはたった六、七年でうちの立場も危うくなってくるでしょうね。」
ジョヴァンナ
「あの役人たちと話をつけてほしいってこと?」
ウォラック
「俺が手配しますから。」
ジョヴァンナ
「もういいわ、ウォラック。」
「この辺りにしておきましょう。」
END
『せめてチェリーニアに何かを残したいわ。』
3-1:ペンギン急便のアジト
ジョヴァンナ(私は行くわ。あなたはわかってるでしょうけどね、ウォラック。)
(……ねえ、チェリーニア。あなたがロッサティのドンだったら、どうするのかしら?)
(あなたも私みたいにすべきこととそうでないことを自分で選ぶのか、それとも流れに身を任せるのか、あるいはすべてを掌握することを選択するのか……)
(あなただったら……ううん。あなたはそもそも初めから、ドンになんてならないわよね。)
(それでも私は、一縷の望みを抱いてしまう……)
(あなたがこの証を受け取ってくれたら、きっと何かできることがあるはず。)
END
『チェリーニアが本当にやりたいことをできるといいんだけど。』
4-1:ロッサティの屋敷
ジョヴァンナ(確かここに入れてあったはずよね。)
いかにもシラクーザらしいネックレスをジョヴァンナがそっと撫でている。
ジョヴァンナ
(ウォラックはもうファミリーを背負って立つことができるし、しばらくの間は、彼があなたをターゲットにすることもないでしょう。)
(そのあとは、必然的に彼とあなたは対立することになるけれど。)
(でも、あなたがもしミズ・シチリアに会えたら……)
「……」
(笑っちゃうわよね。長年待ちわびた仲間だったのに、あなたのやりたいことを少しも理解してなかったなんて。)
(だけど、あなたなら絶対できるわ。)
END
4-2:ロッサティの屋敷
ジョヴァンナ(……こういう物も、その時が来たら置いておけなくなっちゃうわね。)
(ソラに台本や文具の管理をお願いしても、きっと何も気付かれないと思うけど……)
(……ううん、そうとも限らないわね。チェリーニアと同じで、あの子は鋭いもの。)
(とはいえ、ほかに方法もないし……彼女をしばらく騙せるだけでも十分でしょう。)
ジョヴァンナの手がペンを撫でる。
ジョヴァンナ
(もしも私が、まだあなたの物語を脚本に起こすことができるのなら……)
(こんなこととは無関係なお話にするのはどうかしら?)
(一番純粋で、私が一番好きな物語を書くの。)
〔万年筆を置く〕
〔いったん離れる〕
【万年筆を置く】
END
『新しい脚本のアイデアを集めに、出かけてみましょう。』
5-1:シティホール
モブ男A〈左〉「今日の芝居は良かったが、カタリナ女史の作品に比べると面白みに欠けたな。」
モブ男A〈右〉
「思想自体は悪くないが、いまいち深みが足りなかった。この作者はきっと、新都市はまだあのお方の支配下にあると思っているタイプの人だろうな。」
モブ男A〈左〉
「まさか、君は本気でそうじゃないと思ってるのか?」
モブ男A〈右〉
「もちろん!いいか、よく聞けよ……」
金髪のフェリーンが道端のベンチに静かに座っている 。少しやつれた様子ではあるが、手にしたペンは紙の上で絶えずカリカリと音を立てている。
人々のざわめきの中、彼女の口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
ジョヴァンナ
「それで、結局何があったのかは知ってる?」
モブ男A〈左〉
「んー、きっと……あのお方も自分の問題に気付いたから、新都市の話を持ち出して逃げ道を作ろうとしてるんじゃないのか?」
ジョヴァンナ
「へえ、なるほどね。」
その人たちは彼女の独り言めいた相槌を聞き、その手のペンが走り続けているのを見て、少し不安げに彼女が何者かを尋ねた。
ジョヴァンナ
「私?」
「脚本のアイデア集めをしてるのよ。専業の劇作家になりたいと思ってね。」
「新しいアイデア」を獲得しました:
物語が続く限り、劇作家が筆を置くことはない。今回はどんなお話が生まれるのかを、彼女自身も楽しみにしているようだ。
END
5-2:新市街の大通り
ジョヴァンナ「ふぅ……新都市でまともな家を見つけるのは結構骨が折れるわね。」
「前みたいにマフィアの考え方頼りでことを進めようとするのは上手くいかなさそうだし……」
「なかなかよくやってるみたいね。」
ジョヴァンナがカーテンを開くと、窓越しの日差しが空気中に漂うほこりを照らし出した。
雨期が明け、晴天が訪れたのだ。
彼女が外を見ると、建物は太陽の下できらきらと輝いていて、ここに越してきたばかりの人たちは忙しく動き回っており、通りは慌ただしく行き交う人でいっぱいだった。
ジョヴァンナ
「それじゃ、このお話のタイトルは『シラクザーノ』にしましょうか。」
END
FIN
新しい脚本は執筆中。完成をお楽しみに。Agenir
アグニル「銃は力であり、秩序はルールだ。」
裁判所で居眠りをして、目が覚めたらお喋り相手を探すだけ。
[古い法典 /VECCHIO CODICE]
一冊の古い法典。シラクーザにおける基本法の初版本。これを基にして、この国で機能する司法制度が作り上げられた。
『教会を出ると、街でベンを見かけた。』
1-1:新市街の大通り
アグニル「ベルナルド……君が夢見るシラクーザは、君が滅ぼしたいと願うすべてがあるからこそ存在しうるのだと言ったら、君はどんな反応をするだろうか?」
「必要なのはファミリーではなく、ルールなのだよ。」
「はぁ……まあいい。」
「私も歳かもしれないな。」
ベン
「おや?いつも昼寝ばかりしている爺さんが、こんな時間に物思いにふけっているとは珍しいですね。」
アグニル
「ベン……」
END
1-2:木陰のある公園
ベン「一杯どうですか?」
アグニル
「やめておくよ。」
ベン
「つまらない人ですね。」
アグニルはベンの隣に座ってボトルを手に取り、見た目にそぐわぬ仕草でぐいと酒を一口飲んだ。
ベン
「あなたのことですから、すべて終わるまで裁判所で寝ているものとばかり思っていましたよ。」
アグニル
「君のことだから、レオントゥッツォといったか、あの子のほうにつくとばかり思っていたが。」
ベン
「私は名目上、シチリアの部下たる「巨狼の口」の一員でしょう?」
アグニル
「こんな時に、君がそれを認めるとはね。」
ベン
「結局、私は矛盾した人間ですからね。文明の栄光を認めたくもなければ、無意味に死にたくもないのです。」
「無論、あなたも私と同じくらい矛盾しているのは確かですが。」
「あなたは過去数十年にわたって、シラクーザのためにルールを定めてきましたが、シチリアと違って、自分が正しいと思ったことなどないでしょう。」
アグニル
「私は、自分が間違っていないと信じているだけさ。」
ベン
「さて、どうでしょうね。」
ベンはどちらとも言わず、持っていた酒をただ勢いよく流し込んだ。
END
1-3:木陰のある公園
アグニル「君はこの先どうするつもりかな?」
ベン
「これまで通りやりますよ。良い作品があれば、見に行くだけです。」
「そちらは?」
アグニル
「私かい?」
ベン
「ええ。一つ聞かせてください。」
「今日のあなたは、ここに座して時代の変遷を眺め、己の無力を感じていることでしょう。」
「しかし、過去においては?シチリアを追ってラテラーノを去り、この土地のルールを作り始めた時、何を感じていたのですか?」
アグニル
「あの瞬間は、胸の高鳴りを感じたものさ。」
ベン
「その瞬間は、まさに今この瞬間と同じなのです。」
「あなたには何度も言ってきた通り……」
「私はあなたの定めたルールが嫌いですが、かといって新たなルールを好きになるわけではありません。」
「まやかしの文明は、当然心の奥から生まれた文明には劣るもの。」
「ですが、心の奥から生まれたものは常に美しくも儚いのです。」
「シチリアには、自分の時代を守り抜いて死ぬという確固たる意志があります。」
「ですが、あなたは?」
「あなたの望みは揺るぎなき秩序ではなく、「法」は人為的に作れるものだと証明することですよね?」
アグニル
「……ああ。サンクタが絶対的平等の下で共に暮らせる理由の正体を知りたいんだ。」
「一方で彼女は、全ファミリーに同じテーブルで交渉させられる力を望んでいる。」
「だから我々は共に歩むこととなった。」
ベン
「ですが、「銃と秩序」が実現した瞬間、ラテラーノを去った目的は達成されたはず。」
「あなたをこの国に何十年も留まらせているのは、彼女の時代ではなく、彼女との約束です。」
「もう十分に長く守ってきたのではないですか。」
アグニル
「君自身は離れるつもりはないくせに、なぜ私のことを説得しようとするのかな?」
ベン
「あなたもいい歳ですから、目がかすんで前が見えなくなるのではと心配しているだけですよ。」
アグニル
「……」
END
『裁判所は昼寝に持ってこいの場所だ。邪魔が入らなければいいのだが。』
2-1:ウォルシーニ裁判所
ミズ・シチリア「アグニル。」
アグニル/アイマスク
「……」
ミズ・シチリア
「またここで死んだふりをしてるのね。」
アグニル/アイマスク
「Zzzz……Zzzz……」
ミズ・シチリア
「老後をここで過ごさせているのは、ここで起きることを傍観させるためじゃないのよ。」
「今の結果が良かったとしても、簡単には許してあげないわ。」
アグニル/アイマスク
「Zzzz……」
ミズ・シチリア
「アグニル。」
アグニル
「はぁ……朝からそんなに怒っていると身体に良くないぞ。」
ミズ・シチリア
「ほら、答えて。誰の面倒を見させるためにあなたをここに送ったか、忘れてなんかないでしょうね。」
〔レオントゥッツォ〕
〔ジョヴァンナ〕
〔ラヴィニア〕
【ジョヴァンナ】
ミズ・シチリア
「まだボケは来てないみたいね。」
【不正解】
ミズ・シチリア
「ウォルシーニじゃなくて老人ホームに送ってやるべきだったみたいね。」
アグニル
「だから一緒に来ないかと言ったんだよ。」
「公園のベンチに座らないと見えないものもあるぞ。」
「お陰でいくつか面白いものを見た。君も見てみたほうがいい。」
ミズ・シチリア
「グレイホールに座っていないと気付けないものもあるのよ。」
「で、私が聞きたいのはそんなことじゃないんだけど。」
アグニル
「わかった、今回は確かに少しやりすぎたよ。」
「間違いがあったことは認めようじゃないか。」
ミズ・シチリア
「フンッ。」
アグニル
「それじゃ次は、君の番だ。」
ミズ・シチリア
「私が何をしようとしているかわかってるみたいな口ぶりね。」
アグニル
「でなければ、こんな時間にここには来ないだろう。」
ミズ・シチリア
「はぁ……自分を理解しすぎている友人を持つのも考えものだわ。」
ミズ・シチリアは笑って、アグニルの前へと歩み寄った。
そうして、シラクーザで最も高貴な存在は、ゆっくりとそこにひざまずく。
その表情は信徒のように敬虔だ。
アグニル
「汝、誰に許しを請う。」
ミズ・シチリア
「銃と秩序に。」
アグニル
「いかなる過ちを犯したか述べよ。」
ミズ・シチリア
「私は、ある若者の挑戦を受け入れました。」
「彼の目標は、私が築き上げたすべてを打ち砕くことだというのに……」
アグニル
「汝はそれが銃と秩序への裏切りだと思うか?」
ミズ・シチリア
「ええ。」
アグニル
「その裏切りをつぼみのうちに摘まずにいたのはなぜだ?」
ミズ・シチリア
「ベルナルドのやり方はルールを超えたもので、容認できませんでした。けれどレオントゥッツォは私の前に座し、命を懸けて自らの考えを示すことを選んだ……」
「それゆえ私は、彼にチャンスを与えることにしたのです。」
アグニル
「いいや、それは本当の理由ではないだろう。」
ミズ・シチリア
「……私は彼に、シラクーザは私が生きている間輝き続け、私の死と共に衰退するだろうと伝えました。」
アグニル
「汝は己の築いた銃と秩序が在り続けるとは思わないのか?」
ミズ・シチリア
「後継者たちを育てる中で、一つの結論に至ったのです。平和な時代には、次のミズ・シチリアなど生まれてはこない、と。」
「すべてのマフィアを服従させたいと思う時、私の心には野心と情熱しかありません。」
「そして、今日までこの国を管理した私は、シラクーザに情を抱かずにはいられません。」
「私は全力で彼を叩き潰しましょう。」
「その上で、彼が本当に成功したその時は……」
「まま成し遂げさせてあげましょう。」
アグニル
「銃と秩序に代わり告げる。汝の行いは赦されるだろう。」
ミズ・シチリアはゆっくりと立ち上がり、先ほどまでの出来事が自分とは無関係であるかのように表情を元に戻した。
アグニル
「君から懺悔を受けるのはいつぶりかな?」
ミズ・シチリア
「忘れちゃったわ。」
アグニル
「気分はどうだい?」
ミズ・シチリア
「ますます悪くなったわね。」
アグニル
「自分に誠実でいるのは簡単なことではないからね。」
ミズ・シチリア
「……アグニル。あなた、自分は失敗したと思う?」
アグニル
「そう言う君は?自分が成功したと思うか?」
ミズ・シチリア
「それを考えていくと、本当の問題は……どこまで行けば、この国をどれだけ存続させれば、成功と呼べるのかというところにあるのよね。」
アグニル
「もしかすると、全ファミリーを同じテーブルに座らせたその瞬間に、我々は成功していたのかもしれないな。」
ミズ・シチリア
「私たちが築き上げてきたこのシラクーザ自体は、成功していないと言いたいのかしら。」
アグニル
「さてね。時には、他人よりミスが少ないことが成功とみなされることもある。」
ミズ・シチリア
「その説でいけば、私はほかの人よりも幾分かミスが少ないはずよ。」
「何しろ、私にはあなたという鏡がいるんだもの。」
アグニル
「……やれやれ。とんでもない相手と組んでしまったようだな。」
END
『ラヴィニア裁判官から何か話があるようだ。』
3-1:ウォルシーニ裁判所
ラヴィニア「こんにちは。」
アグニル
「やあ、裁判官殿。何の御用かな?」
ラヴィニア
「あの、あなたは……アグニル閣下でいらっしゃいますよね?」
アグニル
「おお?」
ラヴィニア
「裁判所の人が教えてくれたんです。昨日、ミズ・シチリアが裁判所にいらしていたと。」
「これまでは、ここで休んでいるあなたのことを、単なる近所の方だと思っていたんですが……話を聞いてようやく、ミズ・シチリアと並び立つあの方だと思い至りまして。」
アグニル
「……まあ、いいだろう。私も正体を隠しているわけではないしね。」
「しかし、そちらのほうから訪ねてくるとはね。」
「君にとって、私はシチリア同様憎い相手なのだと思っていたよ。」
ラヴィニア
「……そのようなことはありません。」
「ミズ・シチリアをどう思っていようと、シラクーザの法の基礎を定めたあなたには、常に尊敬の念を抱いています。」
アグニル
「では、そんな私に何か聞きたいことでもあるのかな?」
ラヴィニア
「ええと……お恥ずかしい話なのですが、実は、私自身何を聞きたいのかがわからなくて……」
「ただ、あなたがいらっしゃることを知って、お話がしたいと思っただけなんです。」
アグニル
「……」
〔法典を渡す〕
〔いったん離れる〕
【法典を渡す】
END
3-2:ウォルシーニ裁判所
ラヴィニア「法典……ですよね?」
「それも、初版の物なのでは!?」
アグニル
「ああ。君にあげよう。」
ラヴィニア
「こ、こんな貴重な物を……」
アグニル
「ささやかな贈り物として受け取ってくれ。」
「君は私と正反対の道を選んだけれど、私はシチリアほど若者に厳しくはないからね。」
ラヴィニア
「……失礼ながら、正反対とは思いません。」
アグニル
「ほう?」
ラヴィニア
「私には、あなたとそこまで相反する道を歩んでいるようには思えないのです。」
「裁判官たちが行き詰っている原因は法典の条項ではなく、ファミリーの力によってそれがほとんど無視されてしまっていることですから。」
「正直なところ、毎日扱っている事件をすべて法の通りに裁くことができていたら、今の私はいないと思います。」
「裁判官は皆、この法典を編纂した人物――つまりあなたが、公正の何たるかを知る人だと信じているのです。」
「「銃と秩序」の秩序は、法が保つ秩序であるべきだというのに、今ではファミリー間の取り決めのもとに成り立っている状態ですし……」
アグニル
「君の認識には誤解があるようだね。」
「銃は力であり、秩序はルールだ。私が追及しているのは公正ではなく、その有効性なのだよ。」
ラヴィニア
「……ならば私が、法はファミリー間の取り決めに代わるものであることを証明します。」
アグニル
「レオントゥッツォがシチリアにそうしたように、君は私に挑戦する、ということだね。」
ラヴィニア
「その通りです。」
アグニル
「はっはは。であれば、私は……しかとこの目で確かめるとしよう。」
END
FIN
老人は裁判所へ戻り、再び眠りについた。古い法典はやがて書き換えられるかもしれないが、今度ペンを握るのは彼ではない。Sora
ソラ「あたしに在るべき今を返して。それ以外何もいらないから。」
所属している劇団が思ったより複雑な場所だと知った彼女は、どの立場であれ、友人を守ることを優先しようと決めた。
[『テキサスの死』のチケット /BIGLIETTO PER LA MORTE DI TEXAS]
美しく印刷されたチケット。ファミリーの名前をタイトルに掲げたオペラが成功を収めたことに、最近の街の空気も相まって、観客たちは作者の次回作を待ち遠しく思っている。
『破れたドレスを早く直さないと。』
1-1:花屋「ルジアダ」
ソラ「決めました!このお花にします。」
「すみませんが、はさみを貸してもらえますか?茎を自分で切りたいので。」
モブ男A〈花屋〉
「どうぞ。」
「……」
「必要なのは花だけ、ですか?」
ソラ
「はい。ドレスの修繕をしてるんですけど、一箇所縫い目を隠さないといけなくて……こういうお花ならぴったりだなあと。」
モブ男A〈花屋〉
「であれば、こちらの花はいかがでしょう?この色のほうが合うと思いますよ。」
「花」を獲得しました:
傷一つ付けまいと慎重に摘まれた鮮やかな花。ドレスの縫い目を隠すのにはもってこい。
END
1-2:修理屋
ソラの注文を聞いた店主は、慣れた手つきで裁縫箱を取り出して修繕を始めた。そうして少し世間話をしたあと、彼は突然手を止める。
モブ男A〈店主〉
「……デッラルバ劇団の主演を務めていると仰ってましたよね?」
ソラ
「ええ。どうかしましたか?」
モブ男A〈店主〉
「いえ……何でもありません。」
ネックレスを編む彼の手が幾分か慎重さを増した。
「ネックレス」を獲得しました:
ここの店主は何でもこなしてくれるようだ。ソラがデッラルバ劇団に所属していると聞いた時、修繕をする彼の手つきは一層慎重になった。
END
『ドレスを直す材料を集めに、次のところへ急ごう。』
2-1:木陰のある公園
テキサス 「ソラ、少し休め。もう何箇所も駆け回っているだろう。」「単なる衣装にそこまでする必要はない。」
ソラ
「これが普通の衣装だったら、あたしもここまでしませんよ。」
「でも、あたしたちはもうあの監督がベッローネのドンであることを知っています。こうなれば、あたしの置かれた立場はもはや単なる役者ではないことは、あなたのほうがよく知ってるはずでしょう。」
「普段は優しい叔父さんみたいな人ですけど……あの人があたしを利用してテキサスさんを縛らないとは言い切れませんから。」
「そうさせないために、あたしはあの人にどんな隙だって見せられないんです。それが役者としてのあたしだ ろうと、そうでないあたしだろうと――」
テキサス
「私も同行する。」
ソラ
「テキサスさんがそこまでの事態にはしたくないと思ってることはわかってます。」
「でも、もしもの備えはきちんとしておかないと。」
「あたしが龍門から駆けつけてきたのは、あたしたちの大事な友達を……あなたを見つけるためであって――」
「みんなを危険に晒すことなんかじゃないですから。」
END
2-2:ペンギン急便のアジト
ソラの端末が鳴った。ソラ
「もしもし?」
「うん、もう終わったよ。」
テキサス
「(視線で尋ねる)」
ソラ
「(小声) エクシアからです。何か食べ物を買ってきてほしいって……」
「何がいいかな?そういえば、チョコレートとマシュマロのピッツァを売ってるお店を見かけたんだけど、なんか良さそうだと思わない?」
「やっぱりそう思う?了解、それじゃ待っててね!」
「あ、クロワッサンに迎えに来てもらってもいい?買い物しすぎちゃって運べないんだよね。」
「食べ物と飲み物」を獲得しました:
友達の好みをよく知る彼女は、皆の好きなものを選んで買ってきてくれた。
ソラ
「ただいま!」
「はい、エクシアが好きなアップルパイ!」
エクシア
「ばんざーい!」
ソラ
「こっちはクロワッサンが大好きなコルネット!」
クロワッサン
「イエーイ!サイコーや!」
ソラ
「テキサスさんが買ってきたチョコレート菓子と、あたしが買ってきたマシュマロのピッツァ!」
「それと、流行りのドリンクも!冷え冷えでお届けしちゃいまーす!」
クロワッサン
「うぅ……幸せすぎるわあ……」
「……せやけど、こない高カロリーの食事ばっか食べとって、ほんまに問題あらへんの?」
ソラ
「平気平気!楽しく食べればゼロカロリーだもん!」
END
2-3:ペンギン急便のアジト
夜が来て皆が寝静まる中、ソラは眠れずにいた。今日の月明かりは美しく、雨期には珍しい晴れた夜で、彼女は外に出て月を見たくなった。
しかし、眠れないのは彼女だけでもないようだ。
ソラ
「あれ?」
テキサス
「起きていたのか。」
ソラ
「あなたこそ。」
「……」
「あたしは、なんだか眠れなくて。」
「……テキサスさん……」
「明日、もし監督が同意してくれたら、人質として劇団に残ると伝えるつもりです。」
テキサス
「……ソラ……!」
ソラ
「あなたが絶対賛成はしてくれないことくらいわかってます。でも、明日急にこんなこと言い出したら、監督の前で言い争いになっちゃうかもしれませんし。」
「そうなったら、もっとよくないですから。」
テキサス
「それで、私の安全と引き換えにする代価として自分を使うことを思いついたわけか?」
ソラ
「あたしは代価なんかじゃありません。」
「あなたの友達です。」
「それに、あたしは自分が下した判断と向き合う力はあるつもりですしね。」
テキサス
「……」
ソラ
「監督側から出された条件に従うより、自分が望む条件をこちらから申し出たほうがいいと思うんです。」
「心配しないでください。龍門の芸能界での人付き合いだって遊びじゃなかったわけですから、上手くやって みせますよ!」
END
『一件落着!みんなを第三幕の公演に招待しよう。』
3-1:シティホール
ソラ「テキサスさん、やっぱりここにいたんですね!」
「はい、どうぞ!主役だけがもらえる、関係者向けのチケットです!この公演、もうすぐ最終日なんですよ!」
〔チケットを渡す〕
〔いったん離れる〕
【チケットを渡す】
ソラ
「一番よく見えるいい席のチケットですからね。」
テキサス
「公演は明日か?」
ソラ
「はい!」
END
3-2:ロッサティの屋敷
ソラ「やっぱり、もう誰もいないみたい……」
「でも、ここに置いておこうかな。あの人が戻ってきたら、きっと見つけてくれるよね。」
〔チケットを置く〕
〔いったん離れる〕
【チケットを置く】
ソラ
「……」
「ジョヴァンナさん。あたし、最高の演技をしますから。」
「あなたの作品の役者として……そして、あなたの友達として。」
「……また会えますよね?」
END
『無事に公演を終えたことだし、この嬉しさをみんなと分かち合おう。』
4-1:ミラノ劇場
舞台裏に座ったソラは、台本をめくっていた。ソラ/ドレス
「「彼女は実在していない。」」
「「人々はなおも探したけれど、結局何も見つけられなかった。」」
「「無数の想像で作り上げられたその姿はすでに消え去り、幕の後ろには誰もいない。」」
「……」
「これを書いた時のジョヴァンナさんは、もしかすると前のあたしと同じことを考えてたのかも。これまでの自分は、本当のテキサスさんを理解してなかったんだ 、って気付いたんだろうな。」
「最終的にあの人は理解したはずなのに、立ち去ることを選んだ…….」
「だけど、もしもあたしの公演を見に来てくれてたら、きっとあたしが歌い方や台詞を変えたことに気付いてくれるよね。」
「……あたしにはわかったんだ。友情に一番必要ないものは、誰かの友達になる資格があるのかを自分に問いかけることだって。」
「……次はいつ会えるのかな……?」
END
4-2:ミラノ劇場
カーテンコールの拍手が鳴り響く中、ソラは再び舞台 に上がる。そうして役者たちの間に立つと、下を見た。観客はまだ最後の結末について話し合っていて、興奮気味に声を上げ疑問を口にする者もいた。
モブ男A
「それで……最後のテキサスは、本当に実在しないのか!?」
それに答える声はなく、彼の声はさらなる議論にかき消されていく。けれど、ソラは心の中でその問いに答えた。
ソラ/ドレス
(テキサスは存在するかどうか?――あのファミリーの末裔で、シラクーザに太刀打ちできなかった無力な人で、最後にはただの幻想と明かされるテキサスは……)
(……もちろん、実在してないよ。)
ソラが客席を見やる。まばゆい舞台照明の向こうに、見慣れた黒髪を見つけた。
そう――あんなテキサスは実在しないよ、と彼女は思った。そこにいるのは、チョコレート菓子が好きで、 眠る時にはソラの音楽を聴いている、いつまでだって大親友のテキサスだ。
そんなテキサスが、今は客席に座り、カーテンコールに応えるソラに拍手を送って微笑んでいる。
そしてそのそばに座るのはエクシアとクロワッサンだ 。二人は興奮して立ち上がり、舞台上のソラに向かって手を振っている。
ここに来たかいがあったな、とソラは思った。
END
4-3:ミラノ劇場の外
ソラ/ドレス
「きゃっ!!」
「そんなに抱きしめないで、エクシア!髪飾りが潰れちゃうでしょ!これ返すやつなんだからね!」
エクシア
「いや~もうサイコーだったよあの演技!キミ、本当にソラ?」
ソラ/ドレス
「当たり前でしょ!」
ソラは次々と劇場を去っていく観客たちに目をやった。
クロワッサン
「……誰か探しとるん?」
ソラ/ドレス
「……ジョヴァンナさんをね。来てないみたいだけど……」
テキサス
「あいつなら……」
「もう一度心を決めたら、きっとまた会いに来るだろう。」
ソラ/ドレス
「そうですね。」
「ジョヴァンナさん宛のチケットを入れた封筒に、ペンギン急便の住所を書いたメモも入れておいたので。」
「あれを受け取ってくれてたら、いつか龍門で会えますよね!」
エクシア
「じゃあその前に――」
クロワッサン
「まずはパーティーの時間やな!」
END
FIN
彼女が『テキサスの死』で見せた演技は、その親友の過去だけでなく、彼女自身の今と未来から生まれたものだった。Demetri Certaldo
ディミトリ・チェルタルド鋭いナイフに、芳醇なワイン。そこにあるのは果てなき憂い。
これまでの彼の行動はすべて、いつかベッローネをシラクーザの支配者にするためだけのものだった。彼は、ドンが彼らを必ずそこまで導いてくれると信じて疑わなかったのだ。
[かつての贈り物 /VECCHI REGALI]
鋭利なナイフ。所有者はこれをしまうと同時に、レオントゥッツォ・ベッローネへ勝手に復讐してはならないと、構成員たちに警告した。
『レオンに真実を伝えた。あいつはドンと話すべきだ。』
1-1:ベッローネの屋敷
ディミトリは扉を閉めた。その向こうでなされるベッローネ親子の会話は、分厚い扉に遮られて聞こえなくなる。ディミトリ
(レオン……ドンは俺に計画を話してくれたし、お前にも考えを伝えてくれることだろう。)
(そうすれば、お前にもわかるはずだ。俺たちが今何をすべきかも、お前が今やっていることがどんなに軟弱でばかげたことなのかも……)
(理想と計画を語ってくれたドンの姿は、まさにファミ リーの首領に相応しいものだった。)
(あの人はグラスが置かれたテーブルの向こうでソファに座っているだけなのに、まるで玉座にでも座っているように見えた。)
(俺はあの日、今のシラクーザのぬるさに気付かされたんだ。)
(俺たちはミズ・シチリアの支配に慣れきっちゃいけない。彼女が定めたルールの下で決められた利益を分配するなんてばかげてる。)
(ファミリーってのは戦って最大の利益を奪い取り、占有して、それを自分で好きなように切り分けてこそなんだ。)
(ドンは俺にそれを教えてくれた。)
END
『ジョヴァンナ暗殺を任された。準備を始めよう。』
2-1:ベッローネの屋敷
ディミトリ「ドン、人員は手配しましたが、レオンはどうしましょう……?」
ベルナルド
「あいつはまだ書斎か?」
ディミトリ
「はい。」
ベルナルド
「ふむ。お前から見て、最近のあいつをどう思う?」
「率直な意見が聞きたい。」
ディミトリ
「……」
「部下としての立場からすると、彼は最近ますます揺らいでいて、あの裁判官の行動から影響を受けているように見えます。」
「考えがあってのことだというのはわかりますし、発展する時代に適応して、より効率的な独自の手段を取ろうとしているのは理解できます。ですが明らかに、最近の彼は軟弱になっているんです。」
「ファミリーの内部でも、こうした声は少なくありませ ん。皆命令に従いはしますが、内心疑問を抱いています。」
ベルナルド
「続けたまえ。」
ディミトリ
「……友人としての立場からすると、レオンは背を預けるに値する良き兄弟分です。」
「ですが、だからといって今の行動を受け入れるわけにはいきません。」
「ファミリーの跡継ぎであるあいつだけは、こんな真似をするべきじゃないと思いますから。」
END
2-2:ミラノ劇場の外
ディミトリ「到着だ。」
「お前らは舞台を観に来た普通の観客や一般市民のふりをして、劇場の外で待機しろ。中のことには関わらなくていい。ただし、ジョヴァンナが劇場から出てきたら――」
ディミトリはあるジェスチャーをした。
ディミトリ
「ドンの命令を絶対に完遂しろ。」
END
2-3:ミラノ劇場
ディミトリ「待ち伏せは頼んだぞ。」
「屋敷に残った運転手から何か連絡は入ったか?」
モブ構成員
「いえ、何も。若旦那が出発したという知らせは誰も受け取っていませんし、今は全員待機しているそうです。」
ディミトリ
「……」
「レオンは来ない。」
モブ構成員
「どうされたんでしょうか……?」
ディミトリ
「聞きたいことが色々あるのはわかってる。」
「だが、これはあいつ自身が招いたことなんだ。このまま躊躇い続けるようなら、ドンが対処してくださるだろう。」
「だから今は、準備を整えればいいだけだ。ドンの命令に従ってな。」
「俺たちは黙ってそれを完遂すればいい。」
END
2-4:近道のある公園
ディミトリは公園のベンチに腰かけていた。ここ数日休む間もなく動き回っていた彼は、今ようやくほんの少しだけ息つく時間を手に入れたところだ。
ディミトリ
(レオン……俺も、お前が言ったことについて考えてみたよ。)
(思うに、それは……確かに実現不可能なことじゃないのかもしれない。)
(俺たちがベッローネじゃなくほかのファミリーにいたとしたら、本当に何かできたのかもな。)
(ははっ……だとしたらそのファミリーは、このシラクーザではどう見えるんだろう。)
「……」
(お前の言ってることはわかる。)
(お前が思い描いた未来も理解はできるよ。)
(でも、それはまだ実現してないよな。今のところただの想像で、実証されてないものだ。)
(俺たちは地に足つけて行動しないといけない。)
(だからお前が今本当にやるべきことは、ファミリーの跡継ぎになることだけなんだ。)
(もしお前が本当に……)
(本当にそのつもりなら、俺はドンに考えを伝えに行くとしよう。)
END
『奴の暗殺が始まろうとしている。冷静にいこう。』
3-1:ミラノ劇場の外
モブ構成員「もうすぐ劇が始まります。」
ディミトリ
「全員、準備しろ。」
ディミトリはナイフをしっかりと握りしめた。
この時の彼には、いつも仕事の前に感じるような高揚感はなく、むしろ少しばかり気が重く感じていた。
彼は初めて、ナイフを抜くのに躊躇いを覚えたのだ。
しかし、それはほんのつかの間で、すぐほかの感情に塗り替えられていく。
ディミトリ
(今夜のことが上手くいこうといかなかろうと、俺が戻れたらお前に謝ることにするよ、レオン。)
(最後にすべてを勝ち取るのはベッローネでないといけないんだ。)
(そうでなきゃ、ファミリー全員のこれまでの努力が、たった一人の判断ミスで全部台無しになる。――そんなこと、絶対受け入れられない。)
「身を隠せ。――行くぞ。」
END
3-2:ミラノ劇場
劇場の隅々に至るまで待ち伏せ用の人員が配置され、ロッサティの暗殺が始まろうとしている。これはドンからの命令だ。街の混乱は止まらず、彼はファミリーのためにすべてを捧げようとしている。
『新しいファミリーの構成員が何か話したがってるようだ。』
4-1:シティホール
モブ構成員「ドン、準備が整いました。」
「レオントゥッツォは今日、新しい住み家である新都市へ向かうようです。」
「復讐をするなら、今日は絶好のチャンスですよ。道中で奴を始末しましょう。」
ディミトリは短いナイフを手にしている。
〔ナイフを撫でる〕
〔いったん離れる〕
【ナイフを撫でる】
それはレオントゥッツォからの誕生日プレゼントだった。
ディミトリ
「やりたきゃやってみるといい。今行っても無駄だと思い知るだけだろうがな。」
「あいつにはミズ・シチリアの許しがあり、そばにはまだテキサスもついている。行ったところで死ぬだけだ。」
「仮に成功したとしても、レオントゥッツォからすれば、それは最終決戦の前の卑劣なだまし討ちにすぎない。それで死なれたところで、誰にとっても無意味だ。」
モブ構成員
「じゃあ、俺たちは……」
ディミトリ
「俺の目的はレオントゥッツォ・ベッローネによるファミリーへの裏切りに復讐することであって、それは私的な暴力によっては成立しない。」
「奴が死ぬにしても、それは俺たちの成果を見たあとであるべきだ。」
「とはいえもちろん、お前たちの行動を止めるつもりもない。死も一つの結果ではあるだろうさ。」
「俺たち全員にとって、裏切りは裏切りなんだしな。」
モブ構成員
「……わかりました。」
構成員が扉を閉め、部屋の中は再び静まり返った。
ディミトリは引き出しを閉じ、ソファに横になって深く息を吐き出す。
彼の憎しみは本物であり、その過去はただ怒りを感じさせるばかりで、彼は自分に我慢するよう言い聞かせていた。
そうして、目を閉じる。
ディミトリ
「……お前とは、俺がケリをつけるべきなんだろうな。 レオン。」
END
FIN
いつか敵対することになる親友に背を向けて、彼は歩き出した。Danbrown Leopardi
ダンブラウン・レオパルディ時代に見捨てられた放浪者にして、時代の嘘を暴く名もなき人。
血が滾るような粛清はもはや夢でしか見られない。目を覚ませば見せつけられる現実は、この文明の卑怯さを感じさせる。
[ボックス席の鍵 /CHIAVE DELLA SCATOLA]
小さく精巧な鍵。ボックス席一つにつき、一本しかない。劇場のマネージャーはこうして、観劇に来たマフィアたちの安全を確保しようとしている。
『洗車は終わったし、待ってる客に伝えてやろう。』
1-1:洗車屋
モブ男A〈客〉「もう終わったのか?やたら仕事が早いな。」
ダンブラウン
「これで食ってるからな。」
モブ男A〈客〉
「さっさと仕事上がろうとして、急いで終わらせたんじゃないのか?」
ダンブラウン
「そう思うなら確かめてみたらどうだ?」
モブ男A〈客〉
「……」
「チッ、話の通じねえ奴。」
ダンブラウン
「じゃ、道中気を付けて。」
彼は洗車屋の奥の部屋に行き、布団のないベッドに横になる。
夢。
ダンブラウン
「Zzz……」
洗車工はある「掃除」を夢に見た。
雨水に混じった血が下水道に流れ込み、そこに住む小さな獣が嬉し気にそれを啜り、最期はどぶにひっくり返って死んでいく。
彼は一本のナイフを握っていて、その血濡れた刃は温かい。これほど温まるまでに何人斬ってきたのだろう?そんなことも気にせず、彼はただ再びそれを振りかざすことだけを考えている。最も直接的な方法——明白なる暴力で。
これぞシラクーザだ!これこそがシラクーザのあるべき姿なのだ!
彼はナイフを振りかざす。次の相手は――
彼は勢いよく起き上がった。その手には何も握っておらず、家々の間から漏れる半月だけが窓越しに目に映るのみだ。
そして彼は、その夢を思い返した。
END
1-2:洗車屋
彼はある「掃除」を夢に見た。夢の中の喜びは本物で、当時の高揚と歓喜に触れた彼は、それをもう一度味わいたいと思った。
『バーで飲んでたら、何か話してるマフィアを見かけた。』
2-1:バー「デル・トラモント」
ダンブラウン「マスター、瓶であと二本。」
モブ男A〈バーのマスター〉
「……まだ飲むのか?今日は向こうに話し込んでる奴らがいるんだが……」
マスターは視界の端で隅のテーブルをちらりと見た。
モブ男A〈バーのマスター〉
「普段なら酔っぱらってちょっと騒いでも構やしないが 、今日は早いとこ帰ったほうがいいんじゃないか?」
ダンブラウン
「あいつらのことか?」
「どうせケンカなんかしねえよ。」
「ただ口喧嘩するだけで、そのうちどっちかがしっぽ巻いて逃げていくさ。」
END
2-2:バー「デル・トラモント」
モブ構成員〈右〉「話は終わりか?」
モブ構成員〈左〉
「当然だ。」
モブ構成員〈右〉
「計画外のことはしねえと言ったはずだよな。」
何人かがコートや帽子から武器を取り出し、向かいの人間の頭目がけて振りかざした。マスターはすぐさまカウンターに引っ込み、改造済みの仕切り板で身を守る。
洗車工は椅子に座ったまま酔った目を細め、争い始めたマフィアたちを見ていた。
そうして混乱の中、彼は突然手を叩いて笑いだす。
ダンブラウン
「はっははは……」
END
2-3:バー「デル・トラモント」
ダンブラウン「ははははっ、いいぞ、やれ!!」
モブ男A〈バーのマスター〉
「ちょっ、静かにしろって!」
ダンブラウン
「そうだ、そうでなくっちゃな!」
彼は椅子の上で満足そうにまぶたを閉じると、そのまま頭を後ろに預けて寝てしまった。
END
『ベンと話したら、新しいことを思いついた。』
3-1:ピッツァ・マルティーノ
ダンブラウン(「この酒に貼られたラベルのように、文明と名付けた旗を掲げればそれに騙された人々から略奪することができる」……?)
「あんた、どこ行くんだ?」
ベン
「どこへなりと、適当に。」
ダンブラウン
「そうか。俺はもう一度オペラを観に行くよ。」
ベン
「今は理解できるようになった、と?」
ダンブラウン
「いいや。」
「あんたが言ってたことを試しに行くんだ。」
ベン
「私の言ったこと、ですか?」
〔文明という名の虚飾〕
〔文明という名の虚偽〕
〔文明という名の虚偽〕
【文明という名の虚飾】
ベン
「本当に覚えていたとは。」
【不正解】
ベン
「ふむ。もう一度考えてみたほうがいいと思いますよ。とはいえ、それを理解したとて何になるかはわかりませんが。」
END
3-2:ミラノ劇場の外
モブ男A〈友人〉「……何の用だよ、こんな真っ昼間から。」
「昨日も映画観てたんだろ、まだ観足りねえのか?つ一か劇場でそんな下世話なのやってんのかよ。」
ダンブラウン
「良いから来い。ほら、ボックス席を用意しといたぜ。」
「奢ってやるから、本物の劇ってやつを観るとしようや。」
「コホン。今日のあなたは上流階級の紳士なんですから 、そのあたり意識してくださいよ。」
END
『劇場のボックス席で観劇をしよう。』
4-1:ミラノ劇場
ダンブラウン「さてと、きっちり 「姿勢を正して」 座ってください。 背もたれに背中をぴったりつけるんですよ。足を前の テーブルに乗せたりしたらダメですからね。」
「で、どう思いますか?」
モブ男A〈友人〉
「めちゃくちゃ居心地わりい……」
ダンブラウン
「それでも、これが正しいオペラ鑑賞スタイルなんですよ。みんなこうやって鑑賞してますし、今のあなたは どう見ても、誰もが尊敬する立派な紳士じゃないですか!」
「じゃあ、こうするのはどうでしょう?」
「テーブルに乗ってるものを全部どかして、代わりに足を乗せるんです。それから、あの人たちが持ってきた、この血が滴る肉を食べましょう。」
「で、今はどうですか?」
モブ男A〈友人〉
「こんな場所で気持ちよく過ごせるわけねえだろ。」
ダンブラウン
「んー……それもそうだな。じゃ、好きなようにやるか。」
壇上は決闘シーンに入っており、主役が剣を手に相手へと斬りかかるところだった。
照明と効果音の演出と共に、敵が倒れる。
モブ男A〈友人〉
「いいぞ!」
「やっと俺にもわかるような話になってきたな!よーし、もっとやれ!」
「おーい、酒持ってこーい!これだけってこたねえだろう!?」
ドアが短く、そして優しくノックされた。外にいるウェイターは、許可なくボックス席に入ることなどないのだ。
「お客様……申し訳ないのですが……」
「階下の方々にも静かにご鑑賞いただけるようご配慮をいただけますと、大変嬉しく存じます……」
洗車工はほんの少し開いたボックス席のドアを見て、そちらに近付いていく。
END
4-2:ミラノ劇場
ダンブラウン「どうしてそこまで遠慮して、そんなとこから話しかけてくるんだ?」
答える者はいなかった。
ダンブラウン
「さっき居た下の客席のチケットと、この高級ボックス席じゃ違うからか?」
壇上の決闘は決着し、下から拍手が聞こえてくる。
階下に座る客の中には、ボックス席の騒音に不満を言うものはいなかった。
ダンブラウン
「あぁ……なるほどな。」
「俺がここにいるから、ボックス席に座ってるからってだけで、文句が言えなくなるわけか。」
「俺は俺のままだってのに、俺はもう俺じゃないってことだ。」
「そうか……はははっ!」
「あんたらはそういう連中なんだな!」
洗車工の後ろに座る友人は舞台の演技を見ようともしなければ、入り口にいる彼のつぶやきを気に留めもしなかった。
彼はただ、そばについたウェイターが注いだ酒を次々と煽るばかりだ。
ダンブラウン
「……ようやくわかった。」
「ほらよ、ボックス席の鍵だ。俺はもう行くが、こいつのことはしっかりもてなしてやってくれ。」
〔鍵を投げ渡す〕
〔いったん離れる〕
【鍵を投げ渡す】
END
『ドンは戻ってこいと言ったが、一度新市街を見てから考えよう。』
5-1:修理屋
「よーく考えろ。いつでも戻ってくるといい。」ダンブラウン
「……」
「ああ、もう新市街まで来てたのか。」
「ここは……ほんとにきれいだな。」
「ちっともシラクーザらしくねえし……」
「死体の転がる木陰や路地すら見当たらねえ。」
なんとなく持ってきたレンチの重みを感じながら、彼は来た道を戻っていく。
ダンブラウン
「ほんとに、ちっともシラクーザらしくねえや。」
モブ構成員〈右〉
「見えた。あいつだな?」
モブ構成員〈左〉
「サルッツォが直々に会いに行ってた奴だし、見間違えるわけねえだろう。」
「誰だか知らんが、生かして帰すわけにはいかねえ。」
「かかれ。」
武器が風を切る音が耳へ届く前に、洗車工は素早く振り返り、少し興奮したような笑みを浮かべた。
ダンブラウン
「あぁ、こうでなくっちゃな。」
END
5-2:新市街の大通り
後ろから足音が聞こえてきた。誰かに目をつけられたようだ。ファミリー同士の争いは絶え間なく続いている。今の彼は、アルベルトの車を一度洗っただけの単なる洗車工だというのに。
『ファミリーに戻ると決めたことだし、ドンに伝えに行くとしよう。』
6-1:サルッツォの屋敷
アルベルト「戻ったか。」
ダンブラウン
「ただ新しいもんが口に合わなかっただけさ。」
「少なくとも今は、何か面白いことができそうだしな。」
「そんで、今回の仕事は?」
END
FIN
彼は再び暴力に身を投じた。Ben
ベン文明の中の荒野。
彼はただ、社会という名の荒野に溶け込もうとしない人々がほかにもいるのかどうかを観察しに来ただけである。
[スーツケース /BAGAGLIO]
丈夫で長持ちするスーツケース。中には何も入っていないようだが、そもそも彼には持つべき荷物など何もない。
『仮に観客がいるとすれば、この人は誰なのかと疑問に思っていることでしょう。』
1-1:木陰のある公園
ベン「仮に、ウォルシーニで起こるすべての出来事を目にする観客が存在するとすれば……」
「その人は疑問に思っていることでしょう。」
「私は――このベントネキシジオスという男は、一体誰なのか、と。」
「この物語にしばしば登場しているのに、どうして何もしないのか。」
「すべてを知っているようにも見えるのに、どうして黙って見ているのか。」
「文明と荒野に関してあれこれと語っていた私自身は、 一体どちら側に、どのような理由で立っているのか……」
「初めに、間違った認識を取り除いておくとしましょうか。」
「――私は、すべてを知っているわけではありません。」
「これまでに述べてきたことは、シラクーザの現状に基づいて合理的な推測を行った結果でしかないのです。」
「その推測が当たっていたのだとすれば、それはただシラクーザという国があまりにわかりやすいからというだけのこと。」
「実際、オペラに関するコメントのほうがより正確で面白かったでしょう?」
「それではここで、私の正体について予想してみてください。」
〔ミズ・シチリアの食客〕
〔自殺志願者〕
〔長命者〕
【自殺志願者】
ベン
「「自殺志願者」……」
「あなたたちは、確信を持ってそう答えたわけではないのでしょう。」
「そうなるのも無理はありません。なぜなら、これは私が自分自身をどう位置付けているかという話ですから。」
「私はこのほかに名乗る名前など持ち合わせていません。」
【不正解】
ベン
「身体機能にせよ、アーツの技術にせよ、私に特筆すべき点などありません。」
「また、私が長命者の類でないことは見ての通りです。」
「「食客」という表現については……シチリアとの繋がりは否定しませんが、この関係は決して対等なものではありません。」
「事実として、私は自らを「自殺志願者」と称するほうを好んでいますしね。」
ベン
「と、こう話すと疑問に思う人もいるかもしれません。自殺志願者を自称する者が、なぜ自らの命を謳歌するかの如く堂々と歩き回っているのか、と。」
「答えは、私が自分を有害だと思っているからです。」
「この存在も思考もまったく役には立ちませんし、あまりに冷静な視点から物事すべてをただ俯瞰して眺めている私は……」
「苦闘する者を応援することも、悪しき者に旗を振るこ ともしたくはありません。」
「たとえば――私はピッツァの店で赤ワインを嗜むのが好きなのですが、自分自身はそのどちら派でもなく、むしろ両方に嘲笑的な姿勢さえ取っています。」
「これは、命に対しても同じことです。」
「私は自殺志願者ですが、それを成すのは見苦しいとも思います。ですから、いずれ自ら命を絶つことになるだろうと確信していながら、その命が自らに勝ってくれることを期待してもいるのです。」
「そう――紳士淑女の皆様方、ここにお目にかけておりますのは、このように矛盾していながらも一貫している男なのです。」
「この矛盾に悩んだ頃もありましたが、今ではこれが私の原動力となりました。」
「私に絶えず問わせ、疑わせ、思考させ、嘲笑させるのはまさにこれなのです。」
ルナカブ
「お前、さっきから何わけわからないことを言ってるのだ……」
ベン
「ちょっとした暇つぶしをしていたまでのこと。」
「自己認識というのはとても重要なものですよ、ルナカブ。」
ルナカブ
「ルナカブは、自分が誰で、何をしないといけないかなんてわかってるぞ。」
ベン
「ですが、もうじきわからなくなる頃でしょうね。」
END
『劇場で『テキサスの死』の最終幕を観るとしましょう。』
2-1:ミラノ劇場
ベン「この結末は、初めはこうではなかったはずです。賭けても構いません。」
「当初、この劇はヒロイックな雰囲気を演出して、テキサス家に悲劇的なイメージのヴェールを被せようとしていました。」
「そこにジョヴァンナ自身の感情が混じっていたことは疑うべくもないことです。」
「ですがそれなら、本来想定していた結末としては、チェリーニアがあのような形で退場するなどありえなかったはず。」
「どうやら、ジョヴァンナも今回の事件の中で何かを悟ったようですね。」
「素晴らしい。そのお陰で、このオペラは佳作から傑作へと姿を変えました。」
「ルナカブ、あなたは面白いと思いますか?」
ルナカブ
「見ててもわからんのだ。」
ベン
「そうでしょうね。それがあなたを連れてきた理由ですから。」
ルナカブ
「はあ?」
ベン
「荒野で生まれたあなたを都市へと踏み込ませた以上、アンニェーゼには覚悟ができていたのでしょう。」
ルナカブ
「覚悟って、何のだ?」
ベン
「あなたがあなたでなくなることへの覚悟です。」
ルナカブ
「でも、ルナカブはルナカブだぞ。」
ベン
「私の知る限り、残りの牙はいずれもどこかしらの組織を拠り所にしています。つまり、彼らを探したければ、文明のルールに適応しなければならないということです。」
「今回ベルナルドと対峙できたように、毎回幸運に恵まれるわけではありませんから。」
ルナカブ
「文明に適応したら、ルナカブはルナカブじゃなくなるのか?」
ベン
「必要のないスキルを多く身につけることを余儀なくされるのは確かですね。」
ルナカブ
「それがお前とどういう関係があるのだ?」
ベン
「関係はありません。あなたと出会ったこともただの偶然ですし。」
「ですが、選択肢はほかにもあるということはお伝えしておきましょう。」
ルナカブ
「それってどういうのだ?」
ベン
「文明をある種の荒野と見なすことです。」
「高層ビルは、そびえたつ大木の一種であり……」
「車の流れは、急ぎ駆けていく野獣の群れであり……」
「そして陰謀は、狩猟技術の一種である、と。」
ルナカブ
「そうすれば何か変わるのか?」
ベン
「それは、自身の文明への見解を明確にする必要があると気付いた時にわかるでしょう。」
END
『では、私はこの件をどう捉えているのでしょうか?』
3-A:ウォルシーニ監獄
ベン「私の人となりを理解すれば、傍観者は私に問いたくなるでしょう。レオントゥッツォとシチリアに対しても 、態度は変わらないのかと。」
「答えは、「もちろんその通り」です。」
「人間という集団の一員として、我々は自分たちが創造したすべてを讃えねばなりません。でなければ、自分たちの歴史を否定することになるのですから。」
「天災から逃れるために、移動都市を作り……」
「より良い生活のために、科学技術は日々進歩していき……」
「より良い集団となるために、我々は絶えず社会構造と管理モデルを変化させ続けています。」
「人間という集団の一員として、我々はこのすべてが称賛に値すると躊躇なく信じているのです。」
「我々は無意識のうちに、自分たちがより良く、より人道的で、より整然とした、より平等な生活を送るに値すると思っています。」
「さらには、こう断言することもできるでしょう。この大地で起こる争いの大半は、悪と正義の衝突ではなく――」
「双方が「良いこと」を追求するにあたり、相手よりも自分の目標のほうが「優れて」いると信じるからこそ起きるのだ、と。」
「ですが、本当にそうでしょうか?」
「我々は荒野をどれだけ離れ、獣とどれだけ違う存在になれたのでしょうか?」
「我々はどこに向かっているのでしょうか?」
「歴史が築いた車輪は、考える余地を与えぬままに、我々を前へ前へと進ませています。」
「ですが、それはさておき、一人の人間として――」
「私は信じずにはいられません。ある瞬間に生まれる感情は、偽りのない心の奥からのものであることを。」
「ゆえに、ルビオやダンブラウン、レオントゥッツォにラヴィニア、さらにはマフィアたちを統一すると決めた当時のシチリアまで――」
「彼らの動機と目的はそれぞれまったく異なりますが、その誰もが称賛に値するのです。」
「無論、ここまでお話ししたことは、私が監獄に現れた理由とは何の関係もありません。」
「ここで、私という人物について補足しておきましょう。」
「私の主な収入源は芸術雑誌の記事を書くことなのですが、当然それでは経済的な潤いを得ることはできません。」
「一方で今、新都市の居住権購入は激しい争奪戦状態ですが、無論これは私には無関係なことです。」
「しかし、芸術的な観点からも、今後の展望という観点からも、ヌオバ・ウォルシーニへ向かうことは良い選択と呼べるでしょう。」
「ゆえに、私は今その方法を探しているところなのです。」
「たとえば――ヌオバ・ウォルシーニの監獄に入る、だとか。」
「ルナカブがスーツケースを頼んだ通りの場所に置いてくれていればいいのですが。」
〔スーツケースを持って行く〕
〔いったん離れる〕
【スーツケースを持って行く】
ルナカブ
「監獄の入り口に置いておいたぞ。」
「だけど、あの箱空っぽじゃないのか。」
ベン
「残念ですね。それだけは気付いてほしくありませんでした。」
ルナカブ
「どうしてあれを持っていきたいのだ?」
ベン
「あれは大学に合格した際母から贈られたプレゼントで、まさしく私の矛盾の体現なのです。」
「すでに家庭との繋がりはありませんが、あのスーツケ ースだけは常に持ち歩いていますから。」
ルナカブ
「ふーん。ルナカブのものは、全部アンニェーゼから作り方を教わったものなのだ。アンニェーゼのことを忘れないようにって。」
「アンニェーゼはきっとお前を嫌うだろうな。」
ベン
「そうとも限りませんよ。」
「何にせよ、あなたには感謝します。」
「お別れの時が来ました。今後しばらくは会うこともないでしょう。」
ルナカブ
「お前、本気でここに住むつもりか?」
ベン
「ええ。あなたのほうも、次にやることを理解しているのではありませんか?」
ルナカブ
「……また会いに来るからな。」
ベン
「他人がこの一幕を見ればきっと、監獄に入る年長者と見送りにきた若者の別れのシーンだと勘違いされるのでしょうね。」
「お行きなさい、ルナカブ。あなたの狩りがうまくいきますように。」
ルナカブ
「えっと……じゃあ、お前のほうも……」
ベン
「では、「一日も早く命が私に勝ちますように」と祈っておいてください。」
END
3-B:新市街の大通り
ベン「私の人となりを理解すれば、傍観者は私に問いたくなるでしょう。レオントゥッツォとシチリアに対しても、態度は変わらないのかと。」
「答えは、「もちろんその通り」です。」
「人間という集団の一員として、我々は自分たちが創造したすべてを讃えねばなりません。でなければ、自分たちの歴史を否定することになるのですから。」
「天災から逃れるために、移動都市を作り……」
「より良い生活のために、科学技術は日々進歩していき……」
「より良い集団となるために、我々は絶えず社会構造と管理モデルを変化させ続けています。」
「人間という集団の一員として、我々はこのすべてが称賛に値すると躊躇なく信じているのです。」
「我々は無意識のうちに、自分たちがより良く、より人道的で、より整然とした、より平等な生活を送るに値すると思っています。」
「さらには、この大地で起こる争いの大半は、悪と正義の衝突ではないと判断することさえできるでしょう。」
「それは自らの思う 「良いこと」が、他者の思う「良いこと」よりも優れているから起きるのだ、と……」
「ですが、本当にそうでしょうか?」
「我々は荒野をどれだけ離れ、獣とどれだけ違う存在になれたのでしょうか?」
「我々はどこに向かっているのでしょうか?」
「歴史が築いた車輪は、考える余地を与えぬままに、我々を前へ前へと進ませています。」
「ですが、それはさておき、一人の人間として――」
「私は信じずにはいられません。ある瞬間に生まれる感情は、偽りのない心の奥からのものであることを。」
「ゆえに、ルビオやダンブラウン、レオントゥッツォにラヴィニア、さらにはマフィアたちを統一すると決めた当時のシチリアまで――」
「彼らの動機と目的はそれぞれまったく異なりますが、 その誰もが称賛に値するのです。」
「無論、ここまでお話ししたことは、私がヌオバ・ウォ ルシーニの街道に現れた理由とは何の関係もありません。」
「ここで、私という人物について補足しておきましょう。」
「私の主な収入源は芸術雑誌の記事を書くことなのです が、当然それでは経済的な潤いを得ることはできません。」
「一方で今、新都市の居住権購入は激しい争奪戦状態ですが、無論これは私には無関係なことです。」
「しかし、芸術的な観点からも、今後の展望という観点からも、ヌオバ・ウォルシーニへ向かうことは良い選択と呼べるでしょう。」
「ゆえに、私は今その方法を探しているところなのです。」
「たとえば――ヌオバ・ウォルシーニの人目につきにくそうな橋の下で過ごすとか。」
〔スーツケースを持って行く〕
〔いったん離れる〕
【スーツケースを持って行く】
ルナカブ
「お前が言ったんだぞ。公園で寝るのはやめろって。」
「それなのに、そのお前が橋の下で落ち着くつもりなのか?」
ベン
「あなたに教えたのはルールです。」
「私はルールを気にしない人間なのですよ。」
ルナカブ
「だったら、どうしてルナカブにはルールを守れと言うんだ?」
ベン
「ルールを破るためには、ルールを理解する必要があるからです。」
「何にせよ、あなたには感謝します。」
「お別れの時が来ました。今後しばらくは会うこともないでしょう。」
ルナカブ
「お前、本気でここに住むつもりか?」
ベン
「ええ。あなたのほうも、次にやることを理解しているのではありませんか?」
ルナカブ
「……また会いに来るからな。」
ベン
「他人がこの一幕を見ればきっと、暮らしを異にする年長者と若者の、別れのシーンだと勘違いされるのでしょうね。」
「お行きなさい、ルナカブ。あなたの狩りがうまくいきますように。」
ルナカブ
「えっと……じゃあ、お前のほうも……」
ベン
「では、「一日も早く命が私に勝ちますように」と祈っておいてください。」
END
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